エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第5回
エッセー作品「悟る」たまねぎくるくるさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回募集した作品のテーマは「鍛える」です。たまねぎくるくるさんの作品「悟る」と山本さんの講評です。
エッセー作品「悟る」たまねぎくるくるさん
悟る
気にかかることがあった。常に頭から離れず腹立たしかったり情けなかったり歯痒かったりした。毎日、精神状態がぐちゃぐちゃだった。
「これまで人間関係でこんな難しい思いをしたことはなかった。もとより人と争ったりもめたりする性質ではない。意見が食い違っても話せば解決の糸口が見つかるものだと信じてきたし実際にそのことで長く思い煩うことはなかったのだが……。
その日も私は友人を前にしてさんざん思いを吐き出していた。時間がどれだけ過ぎたかわかならかったが、ふと目の前の友人がうつらうつらしていることに気がついた。その瞬間申し訳ない気持でいっぱいになった。
吐き出していたのは私個人の思いだ。彼女には何の関係もない。それなのに彼女はこんな私の繰り言に何カ月も付き合ってくれていた。私はそのことに気づかないでいた。これまでずいぶん眠かったり煩わしかったりしたことだろう。
そういえば、母が亡くなった時にも似たような経験をしたのだった。叔母に母の忌明法要の連絡をしようとしたが昼間ずっと連絡が取れなかった。夜にやっと電話が通じたとき叔母は言ったのだ。
「今日は一日息子家族と海水浴に行っていた。」
最愛の母を亡くしたばかりの私にとって叔母たちの「当たり前の日常」は衝撃だった。母を亡くした悲しみは私たち家族だけのものなんだと痛感したのだ。
悲しみや苦しみはその人個人のもの。多少分かち合えることはあっても過剰な期待や甘えなんてもっての外だ。時の自浄作用とともに気持ちは少しずつ変化していき、やがて辛い想い出も薄れていく。楽になる。
少しでも早く悟っていれば、早く執着を捨てていればもっと早く楽になれただろう。鍛えたいのは心。上手く鍛えてコントロールし、しなやかに生きていきたい。
山本ふみこさんからひとこと
気持ちがよく伝わりました。
人間関係の、やっかいな一面についても……。このたび課題「鍛える」には、人同士の問題が多く描かれたのも、うなずけます。
本作のなかに、ちょっとこんな情景が入るといいなあと思うのです。例えば、ご友人に向かって想いを吐きだすところ。
『お互いのあいだに置かれた花模様の珈琲カップも、わたしの話を聞かされている。友人のカップは空っぽになっていて、わたしのカップは、冷めた珈琲をもてあましている。
砂糖は入れたのだったか。忘れた』
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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ハルメク旅と講座
ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪
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