毎日が楽しくない…心の危機に専門医がアドバイス
2024.11.142024年11月28日
メンタル不調は「自律神経」から整える!#3
メンタル回復!自律神経が整う正しい「休息の取り方」
自律神経とメンタルの乱れの整え方を、自律神経研究の第一人者・小林弘幸先生に伺う連載。第3回は「メンタルを回復させる休息の取り方」。「たっぷり眠ったはずなのにスッキリしない」「ぼーっとしてしまう」などのお悩み解消に役立つヒントをお届けします。
お話を伺ったのは、小林弘幸(こばやし・ひろゆき)先生
順天堂大学医学部教授。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
自律神経研究の第一人者。“腸のスペシャリスト”でもあり、自律神経と腸を整えるストレッチの考案など、さまざまな形で健康な心と体のつくり方を提案している。最新著に『なんとなくだるい、疲れやすいを解消する! 自律神経について小林弘幸先生に聞いてみた』(Gakken)、ほか著書多数。
Q.睡眠不足で慢性的な疲労を感じます······
A.「良質な睡眠を取る日」を設けよう
睡眠不足は「睡眠負債」という新語ができるほど、深刻な問題になっています。
睡眠不足で真っ先に影響を受けるのが、自律神経です。寝不足の状態が数週間続くと、自律神経が酸化ストレスの影響を受けて、高血圧や不整脈の原因になります。さらにはアルツハイマーの引き金にもなりかねません。
そうならないためにも、「よい睡眠」の確保が必要になってきます。
「今日はよく眠れた」と感じるときは、眠りの質が良好ですが、「たっぷり寝たはずなのに、まだ眠い」と感じるときは、「よい睡眠」ではないと言えるでしょう。何よりも「気持ちよく眠れた」と感じることが大切です。
基本的には「毎日7時間は寝る」「夜11時に寝て、朝6時に起きる」と目安を決めることから始めます。必ずしもその通りにはいかないと思いますが、寝るときにそう念じるだけでも、意識は変わってきます。
仕事などで忙しく、まとまった睡眠時間を確保できない人は、週に一度「睡眠の日」をつくってみましょう。その日は昼間に意識的に運動量を増やし、寝る前のメールチェックを控え、スムーズに眠れるよう心掛けましょう。
Q.ストレスがたまってイライラが収まりません
A.リラックスさせてくれる音楽を聴きましょう
就寝前に枕元で好きな音楽を聴いていたら、いつの間にかリラックスして眠ってしまったという経験をしたことはありませんか?
また、ストレスがたまってイライラしているときに、たまたまラジオなどでかかった好きな曲を耳にして、気持ちが落ち着いたという経験を持つ人も多いはずです。
音楽を聴いてリラックスするのは、副交感神経が活性化している証拠ですが、どんな音楽でも効果が上がるわけではありません。
リラックスさせてくれる音楽としては、テンポやビートが一定で、音域(音の高低の幅)が狭いものがおすすめです。
と言うと、落ち着いたクラシックや、ピアノや小編成のオーケストラで奏でるイージーリスニングを連想しがちですが、実はハードロックの方がテンポやビートが規則的なので、より効果的。
逆にジャズやクラシックなどは、テンポが変わったり、音域が意外な方向に展開したりするものもあり、必ずしもおすすめではありません。
休息したいひとときには、ぜひ音楽を取り入れてみてください。
Q.家にいても仕事のことを考え過ぎてしまいます
A.自然を感じる過ごし方を意識してみてください
情報過多の現代においては、何かとストレスがたまり、副交感神経のスイッチが入りにくくなってしまいます。そして、交感神経が優位になり過ぎると自律神経が乱れ、免疫力も落ちてしまいます。
そんなときは、疲れた心身を癒やすためにも、頭で考えることをやめ、五感を刺激するのが一番。自然の中に身を置くと、自律神経にとてもよい効果をもたらします。
山や海、森など自然に囲まれた環境の中でキャンプを楽しんだりして、のんびり過ごしてみませんか。
休日にわざわざ遠出するのが難しいのであれば、自然豊かなスポットに行かなくても、ごく身近な場所で自然を感じるだけでもOKです。
例えば、気に入った花を買ってきて部屋に飾る。花には、ストレスによってバランスが崩れた自律神経を癒やす力があります。香りのよい花を選んで買ってくれば、心地よい香りも心を穏やかにしてくれます。
自然と触れ合うという意味では、空を見上げるのもよいリフレッシュ法です。空を見上げると気道がまっすぐになり、全身のすみずみにまで酸素と栄養素が行きわたる効果も期待できます。
Q.気付くとぼーっとしてしまいます
A.ぼーっとするのは次の行動への準備
毎日忙しさに追われていると、何もしないでぼーっとしたくなる人も多いはずです。
あれもこれもと仕事上の負担が増えると、ストレスがたまってピリピリし、自律神経にも悪影響を及ぼしてしまいます。
そんなときに、例えば漠然と空を見つめたり、風景をぼんやり眺めたりすると、交感神経と副交感神経の働きがレベルアップします。
実は人間の脳は、ぼーっとすることによって無意識の状態をつくると、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という脳内システムに変わるようにできています。すると、次の意識的な行動の準備ができるのです。
何も考えていないときに突然アイデアがパッとひらめくのは、DMNがオンの状態で、思考のパフォーマンスが上がっているからです。
物理学の有名理論であるアルキメデスの原理も、アルキメデスがお風呂に入ってぼーっとしているときに浴槽からお湯が流れ出すのを見て、水中の物体は、その物体が押しのけた水の重力に等しい浮力を受けることを思いつきました。
ぼーっとするひとときは、脳を覚醒させ、クリアにする効果をもたらすのです。
Q.ネガティブな感情を引きずってしまいます……
A.気持ちが落ち込むと老化が進みやすくなります
イライラや怒り、嫉妬、不安、心配……など、ついつい引きずってしまうネガティブな感情。こうした感情を長く抱えていると交感神経の働きが強くなり、白血球の中に存在する免疫細胞の一つ、顆粒球が増加します。その結果、大量の活性酸素が体内にばらまかれるため、正常な細胞が傷ついてしまうのです。
そうなると、自律神経を介して老化が進み、病気の発症リスクも急上昇します。
また、メンタルの不安定さによる自律神経の乱れは、腸の働きを低下させます。大腸の悪玉菌が増えると、腸内の毒素も増え、疲労感や肌荒れ、便秘などの原因にもなります。
腸は人体を病気から守る免疫器官として“第2の脳”のような役割を果たしているため、腸内環境の悪化は、脳にもストレスを与え、精神的にも不安定になってしまうのです。
そんな“負のスパイラル”を解消するには、ネガティブな感情を引きずることなく、早く忘れるに限ります。
些細なことで怒ったり、イライラしたりせず、常に気持ちに余裕を持って、頭の中で好きな曲のメロディを思い出すなどして、心を平静に保つよう努力しましょう。
※本記事は『なんとなくだるい、疲れやすいを解消する!自律神経について小林弘幸先生に聞いてみた』(Gakken 刊)を一部引用して作成しています。
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