コバミカのおいしい編集生活 第7回

人生の先輩を訪ねる-林アメリ―さんに学ぶ生き方-

公開日:2019.02.02

更新日:2023.04.03

ハルメク編集部員のコバミカが、企画立案、取材、執筆をする編集生活の中で味わった、おいしい話をお届けします。今回は、書籍が好評発売中の、林アメリ―さんをご紹介します。コバミカが、人生の大先輩から学んだ生き方とは?

ステキな人生の先輩、林アメリ―さんをご紹介します!

※このインタビューは2019年3月に行いました。

この春、私はハルメク編集部に入って8年目を迎えます。月日が経つのはあっという間です。

ハルメクの編集者となってから、「読者世代である母に、優しくなれるようになった」「おいしい手土産に詳しくなった」など、よかったなぁと思うことはいろいろあるのですが、なんといっても、普段はお会いできないような長年第一線で活躍されてきた人生の大先輩たちとお話する時間をいただけているというのは、ありがたく、幸せなことです。

今月は、そんな私が尊敬する人生の先輩の中のおひとりのお話を。

今から4年ほど前、私は都内に住むひとりのきものキルト作家さんの連載を半年にわたって担当しました。
林アメリーさん。フランス生まれの85歳。世界中で愛されるオートクチュールブランド、クリスチャン・ディオールのアトリエでお針子として腕を磨き、あのイヴ・サンローランとも仕事をともにしたというプロフェッショナルです。

50年前にデザイナー、ギ・ラロッシュとともに三越百貨店のオートクチュールの技術指導者として来日し、結婚。きもの地の美しさに魅了され、現在は都内の自宅できもの地や帯地をはぎ合わせたキルトの創作を続けています。

林アメリーさんはいつも笑顔!この優しい笑顔にいつも心癒やされています。 衣装はきもの地で手作りしたリフォーム服
林アメリーさんはいつも笑顔! この優しい笑顔にいつも心癒やされています。
衣装はきもの地で手作りしたリフォーム服

 

林アメリ―さんの、既成概念を取り払ったフレキシブルな生き方

最初の取材日。「ディオールやサンローランと働いていた」という神々しい経歴の情報だけで、なんとなく厳しい方を想像してご自宅に伺いました。

「ようこそいらっしゃいました」

透き通ったブルーの瞳に、少女のような愛らしく柔らかな笑顔で出迎えてくださったアメリーさんは、私の勝手なイメージを鮮やかに覆しました。

「何てステキなの~!」と、この出会いの瞬間から、私はもうアメリーさんのファンに! アメリーさんの魅力は、キルトの手仕事もお料理もファッションも、「オリジナル」であるということ。お手本がないと動けないというか、どこか自分の感性に自信のもてないところがある私は、このアメリーさんの既成概念を取り払ったフレキシブル(柔軟)に生きていらっしゃる姿に心惹かれました。


例えば、アメリーさんの作品。

写真のこの部屋は、ご自宅にあるアトリエです。

写真のこの部屋は、ご自宅にあるアトリエです。
このとき制作していたのは、CD-Rを毛糸で布に縫い付けたもの。黒い生地にメタリックが映えます。アメリーさんの目にはCD-Rがまるでボールのようなポップな存在に映ったようです。
 

これは、何種類ものきもの地を細かく切って、扇形にはぎ合わせている作品。

これは、何種類ものきもの地を細かく切って、扇形にはぎ合わせている作品。気の遠くなるような細かな作業ですが、こうすることで、より一層、きもの地の柄の魅力が引き立つのだそうです。

きものをリフォームした、アイデアたっぷりの作品たち

お皿のクッション

アメリーさんのお宅の食器棚は、こんなふうにきもの地で作った「お皿のクッション」がお皿とお皿の間にはさまっています。「ガチャガチャぶつかりあうと、お皿が痛そうでかわいそうになっちゃうから」と、このアイデアを思いついたのだそうです。

端切れで作ったキャンディー袋

端切れで作ったキャンディー袋。同じ型紙でいくつも作って、家に遊びに来た方など、お知り合いに差し上げているのだそう。色の組み合わせ次第で、きもの地もこんなにポップな印象になるんですね。

そして、ファッションも!
 

市販の黒いシンプルなニットの襟元に、気に入ったアンティークの刺繍を縫い付けています。

市販の黒いシンプルなニットの襟元に、気に入ったアンティークの刺繍を縫い付けています。(筆者撮影)

カーディガンにはきもの地で裏地をつけて。

カーディガンにはきもの地で裏地をつけて。きものは絹なので、こうすることでとってもあたたかくなるうえに、チラッと裏地が見えたときとってもおしゃれ! このアイデアは「なるほど~」と思わずうなってしまいました。

アメリーさんはいつも、美しいものを見ると「これは何かに使えないかな」とイメージを膨らませています。

イメージを膨らませるといえば、お菓子のラッピングに使われていたリボンも「きれいだから捨てるのがもったいない」と集め、それを縫い合わせて1枚の作品にしたこともあるんです。
 

その「イメージを膨らませる」の真骨頂だと私が思っているのが、こちらのタペストリー。

その「イメージを膨らませる」の真骨頂だと私が思っているのが、こちらのタペストリー。何でできているか、わかりますか?

そう、鍵です!

家を取り壊したときに大量に出てきた古い鍵を見ていたら、「いろんな形があっておもしろいかも」と、線対称に組み合わせるアイデアを思いついたのだそう。アメリーさんの辞書に「無駄なもの」という言葉はなく、すべて何者かに生まれ変わる可能性を秘めているのです!

お料理も上手。胃袋をつかまれた酒粕のおつまみとリンゴのレシピ

そして、私はアメリーさんに胃袋もつかまれました。とってもお料理上手なのですが、レシピブックなどは特に見ないで、ほぼ「オリジナル」で作ってしまいます。レストランなどで「これは美味しい」と思ったら、その味を記憶して再現しているんですって。
 

これは、私も真似して作っている酒粕と粉チーズ、それと同量の小麦粉を混ぜて焼いたおつまみ。

これは、私も真似して作っている酒粕と粉チーズ、それと同量の小麦粉を混ぜて焼いたおつまみ。とにかく、絶品。食べた瞬間「アメリーさん、天才!」と思わず感嘆の声がもれてしまったほど。
 

こちらはリンゴにブラックペッパーをふり、砂糖は加えずに鍋にふたをして煮たスイーツ。

こちらはリンゴにブラックペッパーをふり、砂糖は加えずに鍋にふたをして煮たスイーツ。リンゴにブラックペッパーなんて…でも、これがとってもよく合うんです!!!

林アメリ―さんのすてきな暮らしを堪能できる書籍が発売中!

アメリーさんの暮らしの一端を追いかけたことは、私にとって貴重な体験でした。学んだのは「世の中には、面白いこと、美しいものがたくさんあふれている。それに自分が気づけていないだけ」ということ。

アメリーさんは著書『アメリーのきものやわらか暮らし』(ハルメク刊)で、こんなふうに語っています。

何事にも「もったいない」と思う気持ちは私の美意識と表裏です。(中略)ものを惜しみ、時を惜しむ―だから私を取り巻くものや人、すべてが輝いて見え、苦しみや悲しみよりも喜びが勝ってくる。だから一日一日を軽やかに過ごすことができるのです。

おこがましいかもしれませんが、アメリーさんのような軽やかでみずみずしい年の重ね方をしたい。
それが今の私の目標です。

 

林アメリーさんの著書『アメリーのきものやわらか暮らし』(1620円 ハルメク刊)は、全国の書店で好評発売中。Amazonハルメク通販でもご購入いただけます。ディオール勤務時代のサンローランとの貴重な写真から、キルト作品の数々などアメリーさんの魅力を余すことなくご紹介しています。

撮影=門間新弥 

小林美香

山梨県出身。2011年ハルメク入社。雑誌「ハルメク」編集部時代は料理研究家・横山タカ子さんの「信州・四季の手遊(すさ)び」などのライフスタイル系連載を中心に担当。現在は、ハルメクWEB編集部。趣味は、産地直売所めぐりと食べ歩きと登山。

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