エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
山本ふみこさんのエッセー講座 第9期第3回
エッセー作品「交番はお留守です」夛田精子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「仕上げる」です。夛田精子さんの作品「交番はお留守です」と山本さんの講評です。
エッセー作品「交番はお留守です」夛田精子さん
交番はお留守です
友人の家から帰る途中、道のまんなかに2つ折の財布が立っていた。
黒い財布。少し手前に処方箋。これはもしかしたら同一人物のものかなと思い財布をひろうとカードに目がいった。
沢山はいっていたカード。処方箋と同じ名前だった。
とりあえず2つを一緒にして交番にいく。
交番には女の人が一人で受話器にむかって話しているだけだった。
「次の人がきました。替ります。」
と女の人が私に向かって受話器 をさしだした。
「留守の時は電話をして下さい」と書いてある壁のボードを指さした。
ああ、電話でおまわりさんと話すのね。
「お財布を〇〇町1丁目の路上で拾いました。」
「申し訳ありませんがパトロール中なので15分位待っていただけませんか 」
「いいですよ。」
15分か。でも現金をおいてはでれないし、ま、いいか。
「私、用事があるんだけれど」
先客の女の人が言う。この人はパスモカードを拾ったのだそうだ。
「電話で聞いてみたらどうですか?」
彼女は電話口に伝え、いわれたとおりにメモに住所、氏名を記入し、拾ったパスモカードをその上においた。
「失礼します」と帰っていった。
以前は椅子あったんだけど、と思いつつ火の気のない交番内に立っていたら、1人女の人が入ってきた。かぎを落したらしい。
「この電話をなさるといいですよ。おまわりさん、あと少しで帰ってくるみたいです」、受話器をとり、落した鍵について説明をはじめた。
雨がぽつぽつとふってきた。黒いかたまりが横ぎり、パトロールからかえってきたおまわりさんが入ってきた。
名前を言い、記入し、一緒に財布の中身の確認をする。
お札と小銭。保険証。マイナンバーカードなどのカードの数々。
ゲッと思わず息をのむ。
同席した鍵をなくした人が、そっと自ら外に出る。
「相手にすぐ届けて下さい。謝礼など私一切 放棄しますから、こちらのことは伝えないで下さい。」
と言う。
「このごろそういう人が多いですよ」
外にいる人におまわりさんは「もう入っていいです」と言う。
入れ替りにわたしは交番を出た。
こんど財布をみつけたら、人のいる交番まで届けようとひそかにきめた。
山本ふみこさんからひとこと
この作品にはリズムがあります。
それも、書き手ならではのリズムです。
「ならでは」というのが大切で、反面曲者といえるでしょう。
書き手の個性は生かされるのが望ましいのですけれど、それがひとりよがりなものであったなら、読み手は受けとれません。
音読しながら書きましょうと、わたしがたびたびお伝えするのは、「読み」の(音の)心地よさとともに、これで伝わるかな、理解してもらえるかなという確認の意味でもあるのです。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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ハルメク旅と講座
ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪
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