女性に贈る言葉
瀬戸内寂聴さんが語る、50代60代が持つべき矜持
瀬戸内寂聴さん(2021年逝去)は、かつて90歳になった年に人生を振り返りつつ、「50代60代こそ女の花盛り」と語りました。変化の多い50代60代を生きるために、必要なのは「自分の改革」だと説きます。
今の50代以上の女性は、みんな若くてきれい

今、私の法話に来てくれる50代以上の人々は、みなさんとても若くてきれい。昔の感覚で言えば、すでに老人の仲間入りの年代かもしれませんが、今の50代や60代というのは、女の花盛りのように見え、開花しきった魅力にあふれています。
ただ、一方で寂庵に悩みを相談に来る人もまた、50代からが多い。その年代になると、夫はある程度の地位になり、余裕ができて若い子の方に目がいき、妻をないがしろにするようになる。子どもも手を離れ、時には邪魔者扱いされてしまいます。すると、自分は何のために一生懸命に夫や子どもの世話をしてきたのかと、虚しく感じてしまうのです。
働いている人は、まだまだ働き盛りなのであまり思い悩みませんが、家にいて家庭を守る主婦にとっては、その頃がもっともつらいのではないでしょうか。
加えて、女性にはその頃にちょうど更年期が訪れます。日本の男性は思いやりがないので、「もう女じゃない」などと平気で言う。医師に相談すれば、薬を処方してもらってラクになれるのに、その年代の人たちは体の変化までまともに受け止めてしまい、悪くするとうつになってしまうのです。
50歳を過ぎたら、自分の中に改革を

ですから私は、女性も50歳を過ぎたら、自分の中に革命を起こせばいいと思います。考えてみると、私も51歳のときに出家という革命を起こしました。
出家した当初は「なぜ出家したのか」といろいろな方に聞かれましたが、それがわかれば、出家などしません。正直、そうした質問に答えようがなくて、あるときふと「更年期のヒステリーではないかしら。だから、どうでもいいことを深く考えるのよ」と言ったんです。するとみんなが「なるほど」と納得するの(笑)。
以来、めんどうくさいので、質問されるたびにそう答えてきましたが、後から考えると、実際にそうした面もあったのかもしれませんね。
出家は極端にしても、革命は自分の中で十分に起こせます。主婦であれば、例えば洗濯をすべて洗濯屋さんに頼んだらいくらかかるだろう、ご飯も作る人を専門に雇ったらいくらかかるだろうと、すべて計算してみる。そして、夫にその分を全部ちょうだいと言ってみるのです。夫はまず払えませんよ、高くって(笑)。でもそれだけの仕事を主婦はしているのです。
家にいると、外で働く人をうらやましく思いがちですが、外で働くばかりが偉いわけではない。主婦という仕事も、誰でもできることではないのです。主婦ができる人は、主婦の才能があると思ってください。私なんてできないから家を出たくらいなんですから、主婦って偉いんです。子育てについても、子どもに邪魔者にされる前に、ここまで立派に育ててあげたと、いばればいいのです。
家族に見返りを求めない。それが慈悲ということ

ただし、感謝の言葉がないという恨み言や、年を取ってから子どもに頼ろうといった気持ちは捨てること。というのも、誰かのために何かをするときは、自分の中でもまた、義務ばかりではなく、そのことを喜びにしていたはずだからです。
10をしたから、12返してほしいというのはさもしいのであって、与えたら与えたきりの無償のもの。それを慈悲と言うのです。
主婦をしている人も、働いている人も、子育てをしている人も、まずはもっと自分の立場を自覚し、自分にプライドを持ちましょう。プライドは、自分の中の革命につながり、自ずと態度や物言いまで変わってくるはずです。

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)
1922(大正11)年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終り』で女流文学賞受賞。73年に平泉中尊寺で得度、法名寂聴となる(旧名晴美)。92年『花に問え』で谷崎潤一郎賞、2011年『風景』で泉鏡花文学賞受賞。98年『源氏物語』現代語訳を完訳。『釈迦』『死に支度』『わかれ』など著書多数。近著に『寂聴先生、コロナ時代の「私たちの生き方」教えてください!』(光文社刊)がある。
※この記事は、「ハルメク」2012年8月号に掲載した記事を再編集しています。
取材・文=来住大地 撮影=中西裕人(ともに編集部)
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