認知症の母が教えてくれた「自分らしい生き方」

安藤優子さん「忘れたっていい」認知症の母から学んだ人生で大切なこと

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安藤優子さん「忘れたっていい」認知症の母から学んだ人生で大切なこと

認知症になった母を介護した安藤優子さんは、その経験から「認知症でも本質は変わらない」と気付いたといいます。50代から12年間の学び直しを経て、「忘れることは必要」「完璧でなくていい」という安藤さんに、自分らしく生きるヒントを伺いました。

安藤優子さんのプロフィール

あんどう・ゆうこ 1958(昭和33)年生まれ。上智大学卒業。同大学院修了、グローバル社会学博士号取得。80年代よりテレビ報道番組のレポーター、キャスター等を務め、国内外の歴史的場面を現地取材。フジテレビ系「FNNスーパーニュース」「直撃LIVEグッディ!」などで活躍。2023年より椙山女学園大学客員教授に就任。現在、関西テレビ「newsランナー」、TOKYO MX「企業家たちの挑戦ストーリー」に出演中。

手本だった母が変わっていく…受け入れられなかった介護の葛藤

40年以上、テレビ報道の第一線で“時代の現場”を伝えてきた安藤優子さん。ご自身の人生観を大きく変えたのは、70代で認知症の症状が出始め、2015年に89歳で亡くなった母との時間でした。

「明るく社交的な母は、私にとって手本のような生き方をしてきた人でした。その母が変わっていく姿を受け入れられなかった時期が、一番つらかったですね」と振り返ります。その頃、母と二人で暮らしていた父にがんが見つかり、半年後に他界。一人暮らしとなった母を、姉やヘルパーさんとともに介護することになりました。

平日は生放送の報道番組に出演し、週末は母の家へ。ところが、「よかれと思ってやっていることが全部、母にとっては大迷惑。『私はどこも悪くない』と言ってヘルパーさんを辞めさせてしまう。老人扱いされることが母には耐えられなかったんです」と話します。

「認知症は人間の本質を奪わない」母の絵が教えてくれたこと

母・みどりさんが描いたアンスリウム。「明るく大らかな母そのものでした」

やがて在宅介護は限界を迎え、施設を選択。「自分の家が大好きな母から『苦労して子育てした私に、なぜこんな仕打ちをするの』と言われ、葛藤しました」

そんな日々を変えたのが、臨床美術との出合いでした。臨床美術とは、絵やオブジェなどを制作することによって脳を活性化させる芸術療法の一つ。最初は乗り気でなかった母も、昔よく訪れたハワイの代表的な花、アンスリウムを描いたとき、満足げに「よくできた」とつぶやいたそうです。

「母の絵を見て、そこには全然変わらぬ、明るく社交的で大らかな母がいるって私は実感したんです。そのとき初めて、認知症は人間の本質を奪わないんだと気が付きました。

買い物も旅行も友達との長電話も、好きなことがどんどんできなくなっていった母の心の中には『できない』自分への怒りが渦巻いていたと思うんです。その母が自分の絵を見て、ようやく『よくできた』と自己肯定できた。そこから母は本当に穏やかになっていき、私たちも救われました」

「自分を自分が認めてあげなくて誰が認めてくれるんだろう」

この体験は、安藤さん自身の価値観を大きく変えました。

「認知症になっても人間の本質は変わらないと知り、過度に認知症を恐れなくなりました。それに、忘れることって、そんなに悪いことじゃない。忘れたっていいじゃないと思うようになったんです」

戦争を経験し、大変な時代を懸命に生き抜いた母にとって、最晩年の穏やかな日々は「人生のご褒美」だったと安藤さんは言います。「今日が何月何日か、私が“ゆうこ”か“まさこ”(安藤さんの姉の名前)か、わからなくてもいい。忘却は人生に必要な作業なんです」

完璧を目指してきた生き方にも疑問を抱くようになりました。

「完璧であろうとすると絶対どこかでパンクします。完璧でなくていい。今の自分を、自分が認めてあげなくて、誰が認めてくれるんだろうって思うようになりました」

50代から12年の学び直し。やりたいことは今やる生き方

料理が大好きという安藤さん。「最近の発見は、里イモは皮付きのままがおいしいこと。皮ごと蒸して素揚げにすると絶品ですよ」

もう一つ、安藤さんの人生の転機となったのが、学び直しです。

「私は現場で実況はできても、その意味をつなぐ“のりしろ”がなかった。例えばベルリンの壁が崩壊したとき『今、石が取り外されました』と実況中継できても、その前後の歴史を踏まえ、どんな意味があるのかを発する知識が欠けていたんです」と安藤さん。

そこで50代を前に大学院に入学。修士課程に3年、博士課程に5年、さらに博士論文を書くのに4年かけて、計12年間、学びました。

「学びのすごいところは、いかに自分が“知らなかったか”を知ることなんです。新しいことを知るワクワク感は、誰もくれない。だから自分でやるしかありません」

今は大学でコミュニケーション論などを教え、女子学生から恋愛相談を受けることもあるそう。

「よく学生が『私はコミュ力が低いから』って言うんですが、コミュニケーションの力に高い・低いはない。あるとしたら誠実かどうかだよって話をします」

年齢を重ねた今、安藤さんは「やりたいと思ったら、今やる。いつかと思っても、いつかは来ないかもしれないから」と笑います。

「完璧でなくたって、忘れたって、いいじゃない。これからは少し軽くなって生きていけばいいんです」

取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人、ヘアメイク=水落万里子

※この記事は、雑誌「ハルメク」2026年3月号を再編集しています。

HALMEK up編集部

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