エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第6期第1回
エッセー作品「ザンギとざんげ」浦田しおりさん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。浦田しおりさんの作品「ザンギとざんげ」と青木さんの講評です。
「ザンギとざんげ」浦田しおりさん
「ザンギとざんげ」
釧路では鶏の唐揚げをザンギと言う。
うちの子供たちが好きだった。私はよく作っていた。
家族が夫と私の二人だけになってからは次第に食卓に上がらなくなってしまった。
もう随分と作っていなかったのに、どうしたことか急に作ってみたくなった。
ザンギはそれほど好きではない夫に悪いと思いながら、今夜のおかずにするために下ごしらえの仕込みをした。
揚げたてを味見してみる。
以前と変わらぬ味にできた。ホッとした。
昔を思い出した。
夕食にとザンギを揚げ始めると私の背後からサッと息子の手が伸びてくる。
揚げたてで熱いからやけどをするよ、と言っても無駄であった。
熱くて手に持っていられなくて口へ放り込む。
「アッチ、アッチ、アッヒィ」と聞こえてくる。
懲りずに妹も仲間にして、次から次とザンギを狙ってくる。
今夜のおかずだからもう駄目、と手の届かぬところへ上げなければならなかった。
なんて懐かしい。なんて愛おしい場面だったこと。
今思えば私が、一番大事なことは何なのか気づけずにいた頃だ。
あの頃の子供たちを抱きしめたくなった。
「抱きしめられた思い出しかない」と言ってもらえるほど、強く強く抱きしめて、抱きしめて、抱きしめ直したい。
まわりからきちんとしていると思われたいばかりに余裕のない毎日を暮らしていた。
その忙しさは、できない事柄の言い訳にもなってくれた。
自分の情けなさを実家の家族にこそ知られたくなかったし、弱音も吐けなかった。
たのしく生きられることを忘れていた。
もう過ぎてしまった日々。
私たちの夫婦の夕食のおかずになるザンギが、ひとつ、またひとつ減っていく。
思い出してはパク。
後悔をパク。
諦めをパク。
夫の分からもパク。
懺悔であった。
青木奈緖さんからひとこと
子どもたちが巣立ち、夫とふたりの静かな生活に戻って、改めて子育て期間中をふり返ることがあるようです。「空の巣症候群」という表現もあるほど、今はもう返らない日々になつかしさも、後悔も、よく頑張った自分にねぎらいの言葉をかけてあげたい気持ちもあるでしょう。この時期の女性の繊細な心の揺れを描いて見事です。
作品の最後の「パク」の意図的なくり返しには相乗効果があります。
また、作中では「懺悔」と漢字を使い、タイトルでは「ザンギ」との兼ね合いから「ざんげ」と平仮名にしている点も、細かな心遣いが行き届いています。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
ハルメク365では、青木先生が選んだ作品と解説動画をどなたでもご覧になってお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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