エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第5期第6回
エッセー作品「迂闊(うかつ)」板谷越りんさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「空っぽ」です。板谷越りんさんの作品「迂闊(うかつ)」と山本さんの講評です。
エッセー作品「迂闊(うかつ)」板谷越りんさん
迂闊(うかつ)
気がつくと、テレビの前で涙していた。
退職後、日課となった朝の連続ドラマを観ていたときのことだ。
突然逝った父の靴に主人公が在りし日の父との会話を思い出す場面に釘づけになった。我が身にもいつか訪れる悲しみの予感をそこに感じたからだ。
「まったく、迂闊だ。」
自分を戒める。
その種の予感めいた感覚は全て排除しやり過ごす毎日を過ごしているのに。
私の腕の中の生後3か月の孫が一瞬戸惑ったようにこちらを見あげ、次の瞬間覚えたての微笑をこちらに向けた。
何もできない赤ん坊。
母乳を飲み、おむつが濡れたといって泣き、またお腹が空いたといって泣くだけの赤ん坊。
昨夜も夜泣きで母を睡眠不足にしている赤ん坊。
状況もわからず、涙の意味も理由もわからぬ赤ん坊の行動に思わず赤ん坊を抱きしめるとまた一筋あふれる。
私の心は赤ん坊に抱きしめられていた。
(そうか。純粋無垢な存在には、こんなにも大きな力が秘められているのだ)
と改めて気づかされた。
失くす予感はそのままに。
今ある幸せを抱きしめようと思った。
山本ふみこさんからひとこと
私の心は赤ん坊に抱きしめられていた。
このフレーズ、いいなあいいなあ、と思いました。わたしは、ここに抱きしめられたというわけです。
「板谷越りん」の、悲しみの予感を排除する覚悟も、潔くて素敵ですね。こういうものは、どこかに香り立ちます。不思議なくらいに。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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ハルメク旅と講座
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