エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
山本ふみこさんのエッセー講座 第9期第6回
エッセー作品「番頭」高木佳世子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「誕生日」。高木佳世子さんの「番頭」と山本さんの講評です。
エッセー作品「番頭」高木佳世子さん
INDEX
番頭
20年以上前の話。お盆休みで大阪の実家に、私はいた。近くにできた新しいスーパーから母が帰ってきた。
「ちょっと高いけど、ええもんあるからな。おいしいで。」
うきうきと商品をテーブルに出しながら、母が何かに気付いた模様。
「いやあ、このスーパー。『鬼のトーエイ 』さんやんか。」
「え、何の話?」
母が昔の話をはじめる。
「お父ちゃん(私の父)が中学校卒業して1年間鳥取で馬方(※註1)やってから大阪へ出てきて住み込みで繊維問屋につとめたんは知ってるやろ。
朝5時から働いて自分の仕事は終わらせて、皆が出勤してきたら色々他の人を手伝って仕事を覚えて、夜は社長の得意先との接待に同席して、18才で番頭になったんや。
その頃、出入橋(※註2)あたりにぎょうさん(たくさん)あった繊維問屋の中で、若手の番頭の三羽ガラスって云われたんやで。
あだ名があってな、『鬼のトーエイ』、『蛇のウエダ』ともう1人がお父ちゃんやってん。
その鬼のトーエイさんが、このスーパーの会社やってはる。がんばってはるなあ。」
若き日の父の話をする母は幸せそうだった。
なんでも鬼のトーエイさんは厳しい商売をする人で、繊維を取り扱いながら、食品分野も早くから立ちあげていて、その会社のおつけ物がとびきりおいしかったらしい。
「お父ちゃんが、一番若い番頭やってんで。」
昭和も中頃だというのに、番頭という役職があり、誇りをもって働いていたことが心に残った。
数年後、末っ子の小学校で読みきかせのボランティア活動に立ち上げからかかわった。
リーダーはバイタリティあふれる私の友人。学年は違ったが、同時に転校してきて学校行事やPTAで顔を合わせすっかり仲良しになっていた。
読みきかせの活動も軌道にのり、グループの名前も決まった。
彼女から提案があった。
「お知らせとか出すときに、肩書きがあった方がいいと思うの。責任者とか中心者じゃなくて、私は管理人になろうと思う。
それでね。かよちゃんにもなって欲しいのがあるんだけど、どうかな、とってもいいのを思いついたんだ。」
「ん、なあに?」
「番頭。なんかぴったりでしょう?」
彼女は満面の笑みである。私もことわる理由はなかった。
その日、私は父に続いて番頭に就任した。
番頭といえば、ある日私の子ども達は聞いたのだ。
「おばあちゃん、三羽ガラスに、あだ名があったんでしょう。おじいちゃんのは?」
「仏のイケダやで。」
※註1:馬方:馬で荷物を運ぶ仕事
※註2:出入橋あたり:大阪市北区西梅田近辺
山本ふみこさんからひとこと
お父ちゃん、よろこんでおられることでしょう。
講座のなかで、関西ことばを駆使して音読してくださいましたとき、それを感じました。
その日、私は父に続いて番頭に就任した。
なんていいのでしょう。
贔屓の球団「ヤクルト スワローズ」の不振の影響か、このところ作品が思うように仕上がらないとのことでしたが、これこそ「高木佳世子」の世界ですね。
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