エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
山本ふみこさんのエッセー講座 第9期第6回
エッセー作品「谷川俊太郎と五月と私」小林澄江さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「誕生日」。小林澄江さんの「谷川俊太郎と五月と私」と山本さんの講評です。
エッセー作品「谷川俊太郎と五月と私」小林澄江さん
INDEX
谷川俊太郎と五月とわたし
「may、may day、私はそれを〇〇しても良い日と訳す。」
私が記憶する谷川俊太郎のこのフレーズから始まる詩は、五月のとある日の朝日新聞「天声人語」の文中にあった。
朝日新聞を購読していたのは両親と最後に暮らした埼玉県川口市の家であり、「天声人語」を読むようにというのは中学の関根先生の教えであった。
半世紀近く前のことになる。
この詩の一節を目にしたその時から、私は五月生れであることが自慢となった。
私には自由の羽があるんだと。
その直後にオイルショックで父は会社を失い、祖母の元で暮らすことになった多感期の私は、このフレーズを片時も忘れなかった。
叶わないことがいくつもあったが、良い時も悪い時も私に寄り添い、背中を押してくれる言葉であった。
若い頃は時とお金を六本木に落とし、その後3人の子育てに大方の体力と時間を費やし、離婚後は仕事に明け暮れた。
そして、昨年それらのすべてから解放され、ようやくこの詩を探すことにした。
記憶曖昧なフレーズからの検索からはじめて、7年前の湘南学園の「学園長のたより」の中に手がかりを見付けた。
そこで初めて「詩」ではなく「散文」であることを知った。
学園長も五月になると谷川俊太郎のこの一文が思い浮かぶそうで、「五月」に人格があるとしたら最大の賛辞であろうと書いている。
自分が誉められたかのように嬉しくなった。
思うところがあって本はあらかたブックオフに売り、図書館を「私の本棚」としてはいるが、この本、谷川俊太郎『散文』に関しては正確に記憶しておくためにアマゾンで買い求める。
「MAY、MAY-DAY――私はそれを落第生のように、・・してもよい日と訳す。
生きていてよい月、五月、喜んでよい月、哀しんでよい月、希望を持ってよい月、愛してよい月、五月、その寛大な五月が、その日から始まっていた。」(1965)(谷川俊太郎『散文』所収「五月の空に」より)
ありがとう、あなたの言葉に私は励まされて今ここに居る、と谷川俊太郎に伝えたい。
山本ふみこさんからひとこと
誕生日って大事ですね。
そのことにあらためて気づかされています。
中学生のとき出合ったことばをひとつの支えとするというのは、奇跡のようなことだと、わたしには思えるのです。
わたしには自由の羽があるんだと。
出合った瞬間にこう感じたひとらしく、力強く堂堂と、センスを磨きながらここまで生きてこられた「小林澄江」です。
これからは、読者に向けてそんなことばを紡ぐ書き手となってくださいましね。
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