市毛良枝さん「何歳からでもやりたいことを楽しむ!学びこそが究極の遊び」

市毛良枝さん「何歳からでもやりたいことを楽しむ!学びこそが究極の遊び」

公開日:2026年06月03日

市毛良枝さん「何歳からでもやりたいことを楽しむ!学びこそが究極の遊び」

俳優の市毛良枝さん(取材時75歳)。柔和な笑顔が印象的ですが、40代で登山、還暦前に社交ダンスを本格的に始めたアクティブな一面もあります。母親の介護も経験する中で、年齢や状況に合わせて歩幅を変えながら、一歩踏み出すコツを伺いました。

市毛良枝(いちげ・よしえ)さんのプロフィール

1950(昭和25)年静岡県生まれ。文学座附属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、71年ドラマ「冬の華」でデビュー。俳優としてドラマ、映画、舞台と幅広く活躍。登山、ヨガ、社交ダンスなど多彩な趣味で知られ、執筆や講演も多数。NPO 法人日本トレッキング協会理事を務める。近年の出演作に映画「正直不動産」、ドラマ「終活シェアハウス」「無用庵隠居修行」シリーズなど。近著に『百歳の景色見たいと母は言い』(小学館刊)

ドラマや映画での「年を取ったら不幸」という描かれ方に違和感

ドラマや映画での「年を取ったら不幸」という描かれ方に違和感

44年ぶりに主演した映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』(2025年公開)で、市毛さんが演じたのは、夫を亡くしてから、孫と同じ大学に通い始める祖母の役。若い頃の夢だった“学び”を謳歌する一方で、こじれていた娘との関係や老後の問題と向き合っていきます。本作への出演を決めた理由を、市毛さんはこう語ります。

「私が若い頃は、ドラマや映画の現場に大先輩がたくさんいて輝いていたんですね。でも今は、若い人が中心の作品が増えたからか、私たち世代にくる仕事は、何か不幸を背負った“かわいそうな人”の役ばかり。『年を取ったら不幸』という描かれ方にずっと違和感を持っていました。

でもこの役は、夫を亡くして落ち込みながらも一歩前へ踏み出す女性です。夫が元気だった頃は考えなくても済んだ問題に対峙しなきゃいけなくなって、悩みながらも、もう一度自立していくお話で、やらせていただいてよかったなと思っています」

知らないことを知る喜びに目覚め、船舶やダイビングの免許も取得

映画で“学び”を楽しむ主人公を演じた市毛さん。ご自身も「学びは究極の遊びです」と言い切ります。

「初めてそう実感したのは、29歳で運転免許を取ったとき。当時は仕事が忙しかったんですが、何とか時間を作って教習所に通い、みんなで机を並べて学科の勉強をするのが新鮮でした。知らないことを知る喜びに目覚め、その後、船舶免許やダイビングのライセンスも取得しました」

さらに父の死をきっかけに始めた登山で世界が大きく広がったそう。

思い込んでいることと、実際にやって知ることでは100%違う

「私が40歳のとき、父が突然倒れて2か月の闘病で他界してしまいました。そのときの担当医がたまたま山好きで、落ち着いてからごあいさつに伺ったとき、社交辞令半分で『今度看護師さんと山に行かれるときには私も誘ってください』と言ったのが、山との出合いでした。

初めて北アルプスに登ったとき、それまで聞かされていた“山は筋肉質な男の世界”というイメージと、自分が行って感じた繊細で深い山のイメージがまったく違っていたんですね。やらないで“こういうものよね”と思い込んでいることと、実際にやってみて知ることでは100%違う。山は私にとって百科事典のような学びの場になりました」

こうして山に夢中になった市毛さんですが、54歳の頃、母が脳梗塞で倒れたのを機に13年にわたり介護生活を送ることに。大好きな山に行けない日々が続きました。

90代でリハビリを始めた母の脚にヒラメ筋がついた

90代でリハビリを始めた母の脚にヒラメ筋がついた

「山に登れず、自分の体がどんどん衰えていくのを感じて、とにかく体を動かして筋肉をつけなきゃダメだと思いました。そのとき友達から『社交ダンスをしてみたら』と言われて、半信半疑で教室へ。優雅に踊るだけと思っていた社交ダンスが、まさに筋トレになると知りました。

例えば骨盤をキュッと締めることを意識して踊ると、ダンスのポーズが決まるのはもちろん、筋肉がついて体全体が締まってくるんです。介護中の気分転換にもなったし、自分の肉体を変える面白さを感じました」

何歳になっても体が変わることは、介護中の母を見ても実感したそう。

「母は倒れてから90代でリハビリを始めて、ほっそりした脚にしっかりとヒラメ筋がついたんです。それを見て驚いて、捨てたもんじゃないなと思いました」と市毛さん。

うれしいときは素直に喜んで、泣きたいときは泣いていい

鍛えることが大切なのは、体の筋肉だけではないといいます。

「心や感情の筋肉も使わなければ衰えます。だからうれしいときは素直に喜んでいいし、泣きたいときは泣いていいと思うんです。実はここ数年、コロナの後遺症で体調がすっきりせず、気分が落ち込んで、やる気が出ない時期もありました。

でも体も頭も心も使っていないとどんどん退化するから、自分が今できることをしようと切り替えました。年を重ねた自分なりのペースで、やれる間にやれることを楽しみたいですね」

市毛さん主演の映画 「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

市毛さん主演の映画 「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」
(c)2025「富士山と、コーヒーと、しあわせの数式」

主人公は、夫を亡くした祖母・文子と、祖母を気遣い彼女と同居を始めた大学生の孫・拓磨。若い頃に“学び”の機会を得られなかった文子は、亡き夫からのサプライズで拓磨と同じ大学へ通うことに。“夢に迷う孫”と“夢を見つけた祖母”が紡ぐ、温かな家族の物語。

主演:豆原一成(JO1)、市毛良枝
出演:酒井美紀、八木莉可子、長塚京三 他
監督:中西健二 脚本:まなべゆきこ
原案:島田依史子『信用はデパートで売っていない 教え子とともに歩んだ女性の物語』(講談社エディトリアル刊)
Blu-ray&DVD発売中 発売・販売元:ギャガ Blu-ray6050円(税込)、DVD4950円(税込)

取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人、ヘアメイク=竹下フミ、スタイリング=金野春奈

※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年11月号を再編集しています。

HALMEK up編集部
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