介護で親と自分の人生を壊さない備え5

親の介護が始まっても仕事は変えない「介護離職」を遠ざける意外な考え方

LIFE LIFE
親の介護が始まっても仕事は変えない「介護離職」を遠ざける意外な考え方

親の介護が始まったら、仕事を休む、異動する、辞めるべき?「何が本当の親孝行か」を考え続ける介護の専門家・川内潤さんに、介護離職を防ぎ、仕事と介護を両立するための考え方や、家族だけで抱え込まない介護体制のつくり方を伺いました。

お話を伺ったのは、介護の専門家・川内潤さん

かわうち・じゅん NPO法人となりのかいご代表理事。社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に「となりのかいご」を設立。以後、企業・自治体・個人に向けて、仕事と介護の両立や家族介護の相談支援を行う。

第4回では、介護費をきょうだいで固定的に分担せず、「できる人が、できる範囲で」という考え方を紹介しました。第5回は、介護が始まったとき、自分の仕事やキャリアをどう守るかを考えます。

介護のために仕事を休む・辞める・変える必要はありますか?

Mills / PIXTA

仕事を手放すことは、絶対に避けるべし

介護が始まると、多くの人が「親のために時間を作らなければ」と考え、働き方を変えようとします。しかし、安易にキャリアのペースを落としたり、介護する時間の取りやすそうな部署へ異動したりすることは、実は「介護の泥沼」への入り口です。

善意で仕事を調整した人ほど、共倒れの危機に陥りやすいという現実があります。それは、私たちが「良かれと思って」行う先回りが、親の自立と自分の居場所を同時に奪ってしまうからなのです。

私が以前出会った、ある男性のエピソードをお話ししましょう。

Case1.「介護しやすい仕事」を選んだ、ある営業所長のケース

Luce / PIXTA

管理職を降りれば、介護と両立できるはずだった

彼は企業の元営業所長。とても優秀な「ハイパフォーマー」でしたが、遠方の両親に介護が必要になったとき、一人っ子の責任感から「自分がなんとかしなければ」と立ち上がりました。

すぐに会社に相談し、実家に通える範囲の部署へ異動を願い出ます。当然、異動先には別の所長がいるため、管理職を降り、バックオフィスの事務職へとキャリアを切り替えました。「休みやすく、介護と両立しやすい仕事」を自ら選んだのです。

一見、これは「親孝行な息子の決断」に見えます。しかし、歯車が狂い始めたのは、ここからでした。

「息子がやってくれる」が、少しずつ日常に 

息子が常にそばにいて、通院の送迎から日々の食事、ちょっとした困りごとのすべてに「先回り」して対応する。親にとって、これほど楽なことはありません。その結果、どうなったでしょうか。両親は「介護サービスなんて必要ない。息子がやってくれるから」と、要介護認定の申請やサービスの利用を頑なに拒むようになってしまったのです。

気づけば、会社では「困った人」に 

そのため、本来ならプロのヘルパーやデイサービスで利用できる部分まで、すべて息子一人が背負うことになりました。仕事中も親からの呼び出しで駆けつける日々。会社側は「介護に配慮して異動させてあげた」というスタンスでした。

しかし現場では、度重なる欠勤や、共有されないタスクのフォローに同僚たちが疲れ果て、その結果、彼は周囲から「困った人」として見られるようになりました。かつてのハイパフォーマーが、気づけば「ローパフォーマー」になってしまったのです。

「親のため」の選択、その先で失ったもの

結局、彼は「これ以上迷惑をかけられない」と、早期退職の募集に応じて会社を去りました。収入を失い、社会との接点を断たれ、24時間親とだけ向き合う日々。貯金が減っていく先に待っていたのは、親子「共倒れ」のつらい現実でした。

一方、会社の人事においては、これは「成功例」として扱われました。コストのかかるベテラン社員が、自発的に、しかも「早期退職という制度のおかげで円満に」辞めてくれたのですから……。

実は、この事例は決して特別なケースではありません。「NPO法人となりのかいご」が実施した『介護離職白書2026』では、現在も介護中で、介護を理由に離職した人のうち、60.3%が介護休業や介護休暇、テレワークなど、何らかの制度を利用していました。この結果は、制度があっても、その利用だけでは仕事と介護の両立を十分に支えられない場合があることを示しています。

つまり、介護離職を防ぐためには、働き方を変えること以上に、家族だけで抱え込まない介護体制をつくることが重要なのです。

仕事を変えずに続けられる介護の体制を考える

kouta / PIXTA

皮肉なことですが、この事例において、悪人は一人もいません。息子も、会社も、親も、みんなが「善意」で動いていました。それなのに、なぜ最悪の結末を迎えたのか。それは、彼が「親が困る前に、解決しようとしたから」です。

ビジネスの世界で優秀な人ほど、課題を見つけるとすぐに解決策を提示し、先回りして動きます。しかし、介護においては、そのスキルがあだになることも……。

もし、彼が営業所長を降りなかったら? 「仕事が忙しくて、どうしても行けないんだ。だからこのサービスを使ってほしい」――そう伝えてプロに任せ、親もそれを受け入れていたら。彼は仕事を続け、両親は介護サービスを受けながら、お互いに自立した生活を続けられたでしょう。

本当に変えるべきだったのは、自身のキャリアではなく、親を支える仕組みでした。仕事を続けることを前提に、地域包括支援センターや介護サービスにつながることが、結果として長く介護を続けていくために必要な備えだったのです。

【POINT】

  • やること:仕事を続ける前提で体制を組む
  • やらないこと:異動や退職を先に選ばない

家族だけで抱え込まないために、今からできること

介護にかかるお金や今後の備えは、考えること自体が大変で、つい後回しにしがちなもの。でも、備えがないまま介護が始まると、心身や仕事への負担が大きくなることも。この記事をきょうだいや夫婦間で共有し、親の介護が本格的に始まる前から話し合うきっかけにしてみてはいかがでしょうか。


次回は、仕事を続けながら介護するための、介護休暇・介護休業の使い方を紹介します。

【介護で親と自分の人生を壊さない備え】

1:親の介護費は「親のお金」でまかなう
2:親の資産、どこまで把握しておく?
3:介護前に聞きたい、親の「これから」
4:介護費できょうだいが揉めないために
5:「介護離職」を遠ざける考え方
6:介護休暇・介護休業の上手な使い方

※この記事は川内さんの著書『介護前夜の教科書 親と自分の人生を壊さないための備え』(講談社刊)より一部抜粋して構成しています。

もっと詳しく知りたい人は

『介護前夜の教科書 親と自分の人生を壊さないための備え』(講談社)

Amazonで購入する>>

HALMEK up編集部

HALMEK up編集部

「今日も明日も、楽しみになる」大人女性がそんな毎日を過ごせるように、役立つ情報を記事・動画・イベントでお届けします。

ライター記事一覧
  • TOP
  • LIFE
  • 親の介護が始まっても仕事は変えない「介護離職」を遠ざける意外な考え方

RECOMMEND

関連コンテンツ

もっと見る

PICK UP

注目の記事

NEW

今週のアップデート