介護で親と自分の人生を壊さない備え2
親の資産はどこまで把握すべき? 介護前に知っておくこと・知らなくていいこと
親のお金について知らないと介護が必要になったときに困るのでは? そんな不安を抱える人は少なくありません。介護の専門家・川内潤さんに、親のお金をどこまで把握しておくべきか、成年後見制度などの選択肢について伺いました。
INDEX
お話を伺ったのは、介護の専門家・川内潤さん

かわうち・じゅん NPO法人となりのかいご代表理事。社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に「となりのかいご」を設立。以後、企業・自治体・個人に向けて、仕事と介護の両立や家族介護の相談支援を行う。
第1回では、「親の介護は親のお金でまかなう」という基本の考え方を紹介しました。第2回は、親がお金の話をしてくれないとき、資産をどこまで把握しておくべきかを考えます。
親がどうしても「お金の話」をしてくれません。どうしたら?
A. 親が自ら話さないかぎり、無理に聞き出す必要はありません
一般的な介護の本をめくると、決まってこう書いてあります。
「親が元気なうちに資産状況を確認しましょう」
「銀行口座や暗証番号、保険の証書を一覧にしておきましょう」
それらを読んで焦りを感じ、「うちは全然教えてくれない」「聞き出そうとすると怒り出す」などと、親子のコミュニケーションに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。私も、「うまく親と会話をして、お金の話をする方法はありますか?」と相談されることがあります。
そのときにはいつも、「うまく会話できるようになることを目指さなくていいですよ」とお答えしています。
私は、親が頑なに拒むのなら、無理に聞き出す必要はないと考えます。むしろ、「知らないままでいい」。親が秘密にしておきたいという気持ちを尊重することが、「親の自立を守る」ことでもあります。
「親の資産なんだから、自由にしたらいい」。それくらい、親子は穏やかな気持ちで向き合っていた方がいいのです。
では、なぜ私たちは、親の資産状況を「早く把握するべき」と焦ってしまうのでしょうか。それは、支える側の私たちが「後で困りたくない」「面倒な手続きを避けたい」と、管理する側の都合を押し付けているからかもしれません。
しかし、人生の主役はあくまで親本人。情報を明かさないことで、たとえ将来手続きが大変になったり、少しばかり損をしたりしても、それは「教えない」と決めた親の生き方そのもの。それを、丸ごと受け入れてもいいのではないでしょうか。
みなさんも、今、ご自分のお子さんに「うちには今いくらあるの?」と聞かれたら、なかなか正直には答えられませんよね。親世代にとって、老後の財布の中身を子にさらけ出すのは、さらに難しいこと。それは自分が老いていくことを認め、人生の主導権を手放すような、寂しさをともなう作業なのかもしれません。
あるいは、「子に余計な心配をさせたくない」という、不器用な親心の場合も多いのです。お金の話を嫌がるのには、必ず、その人なりの理由があるものです。
親の資産を把握すれば安心? 知ることで生じるリスクも
一方で、親のお金の状況が明かされた場合のリスクもあります。
親が明かしたということは、子にもそれだけの責任が発生することを意味します。「私たちに介護が必要になって、お金が足りなくなったら、あなたたちが出してくれるんだよね。頼ってもいいんだね?」などと、依存されやすくなることも。
また、認知症になって、「そんな約束はしていない」とか「あなたたちが私のお金を奪った」と言われてしまうかもしれません。
また、「死んだら、これだけは子どもたちに残す」と明らかにすることで、親の死後のお金を当てにしてしまう気持ちも生まれやすくなります。いずれにしても、お金の状況を親が明かしたところで、安心が保証されることはありません。
親のお金をどこまで聞く?「秘密を持つ自由」を尊重する
とはいえ、「もし急に入院するなどして、親のお金のありかがわからなかったら?」と不安になるのは当然です。
「具体的な内容は教えてくれなくていいから、どこに何があるかを一覧表にしておいてほしい」くらいはお願いしておいてもいいと思います。加入している保険に関しては情報共有に抵抗がない場合が多いので、書類のありかや担当者名を聞いておくのもいいでしょう。
ただし、それらに答えてくれるかどうかは、親次第。あまりこだわらず、何か情報を教えてくれたらラッキー、くらいに捉えておきましょう。あくまでも、親子の関係を良好に維持するためのコミュニケーションを心がけてください。
そして、本当に困ったときは、病院や施設の窓口で、正直にこう伝えていいのです。
「まったく聞いていないのでわかりません。自分たちの生活も精一杯なので、肩代わりは難しいです」。
えっ、本当? それでいいの? と思われますか。無責任に聞こえるかもしれませんが、必要に応じて、成年後見制度など、第三者が支える仕組みを検討する道が開かれます。
親のお金がわからない、管理できない…「成年後見制度」という選択肢
成年後見制度には、判断能力が低下したあとに家庭裁判所が後見人等を選ぶ「法定後見」と、判断能力が十分なうちに、本人が将来の後見人を決めて契約する「任意後見」があります。
成年後見人の報酬は、家庭裁判所が後見事務の内容などを踏まえて決定し、原則として本人の財産から支払われます。資力が乏しい場合は、自治体の助成を利用できることもあります。
成年後見人がつくことで「家族の思い通りにならない」という戸惑いの声を聞くこともあります。
たとえば、子が「実家のトイレやお風呂が古くて不自由そうに見えるから、リフォームにお金を使ってほしい」と言っても、後見人が拒むといったケース。それは親本人が「あと何年ここに暮らせるかわからないし、もったいないから今のままでいい」と望んでいるという理由からです。
後見人は、本人の意思を尊重し、心身の状態や生活状況にも配慮しながら判断します。たとえ子からはそれが不便に見えても、親が自分の価値観で最後まで暮らすことを尊重する。そんな「不自由な自由」を守ってくれる存在がいるのは、親本人にとっては、心強いことではないでしょうか。
もちろん、親自身が希望するなら、任意後見契約や家族信託などを検討することもできます。ただし、どちらも親の意思があって初めて成立するものです。
子がすべてを把握し、先回りして「安全なレール」を敷くことが、必ずしも親の幸せにつながるとは限りません。秘密を持ったまま老いていく自由。その結果として起きる不都合。それらすべてを「親の人生」として、一歩引いて見守っていただきたいと思います。
お金のことを無理に聞き出そうとして、大切な親子関係をギクシャクさせるくらいなら、「知らない」というスタンスを貫く。それもまた、後悔の少ない、穏やかな最期を支えるための、深い愛情の形だと思います。
【POINT】
- やること : 最低限の書類のありかだけ共有する
- やらないこと : 資産額や暗証番号を無理に聞き出さない
家族だけで抱え込まないために、今からできること
介護にかかるお金や今後の備えは、考えること自体が大変で、つい後回しにしがちなもの。でも、備えがないまま介護が始まると、心身や仕事への負担が大きくなることも。この記事をきょうだいや夫婦間で共有し、親の介護が本格的に始まる前から話し合うきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
次回は、お金より先に知っておきたい、親の「これからどう生きたい?」という思いについて考えます。
【介護で親と自分の人生を壊さない備え】
1:親の介護費は「親のお金」でまかなう
2:親の資産、どこまで把握しておく?
3:介護前に聞きたい、親の「これから」
4:介護費できょうだいが揉めないために
5:「介護離職」を遠ざける考え方
6:介護休暇・介護休業の上手な使い方
※この記事は川内さんの著書『介護前夜の教科書 親と自分の人生を壊さないための備え』(講談社刊)より一部抜粋して構成しています。
もっと詳しく知りたい人は

『介護前夜の教科書 親と自分の人生を壊さないための備え』(講談社)
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