介護で親と自分の人生を壊さない備え4
親の介護費、子どもはどこまで負担する? きょうだいで揉めない考え方
親の介護費、子どもはどこまで負担すべき? 介護の専門家・川内潤さんに、「親の介護は親のお金でまかなう」という基本的な考え方や、きょうだいで揉めないための役割分担、親のお金が足りないときの対処法を伺いました。
INDEX
お話を伺ったのは、介護の専門家・川内潤さん

かわうち・じゅん NPO法人となりのかいご代表理事。社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に「となりのかいご」を設立。以後、企業・自治体・個人に向けて、仕事と介護の両立や家族介護の相談支援を行う。
第3回では、介護に備えて親の価値観やこれからの望みを知っておく大切さを紹介しました。第4回は、介護費をめぐってきょうだいで揉めないための考え方を取り上げます。
きょうだいで、介護費の役割分担をどうするべき?
きょうだいの誰もが負担をしなくて済む状況を目指して
ケースAでは、実家に両親が二人暮らし。子はきょうだいがそれぞれ別世帯に暮らしているとします。長子が「きょうだいなんだから、毎月2万円ずつ出し合って親を支えよう」と提案します。
一方、ケースBでは、実家を継いだ長子が老いた母と一緒に暮らしており、「うちは母の面倒を見ているのだから、離れて暮らしているきょうだいたちからは2万円ずつ回収する」と提案する――。
ケースA・Bともに、一見公平で、理にかなったルールのように思えます。しかし、私はあえてお伝えしたいのです。どんなパターンであれ、きょうだいでの「固定の役割分担」はしない方がいい。今は払える2万円が、いつか誰かの人生を縛り、きょうだいの仲を引き裂くことになる日がくるかもしれないのです。
長い人生の中では、何が起こるかわかりません。想像してみてください。
家族の誰かが病気や事故で入院するかもしれない。子どもの教育費が、予想以上にかかるかもしれない。
リストラや事業のピンチなど、仕事が思うようにできなくなることもあるかもしれない。人生最後のチャンスだと、自己投資に賭けたい局面がくるかもしれない。
予期せぬ事態に遭遇したとき、2万円の負担をめぐって、夫婦に亀裂が入ることだってあるかもしれません。
「お兄ちゃん、来月の2万円はちょっと待って」
「何ヵ月滞納していると思っているんだ、いいかげんにしろ!」……。
介護前夜の親を持つ世代はその多くが、「人生でお金がかかるピーク期」を過ごしています。そんな時期に無理をして出すお金が、介護の環境を劇的に良くする「投資」になる根拠は、どこにもありません。そこまでのリスクを背負ってまできょうだいを縛る必要はないのです。
介護費は「親のお金」で払う。立て替えた場合も必ず精算を
先にお話しした通り、「親の介護は、親のお金でまかなう」、このルールをみんなが知っておくこと。手続きやケアマネジャーとの話し合いなど、事務的な対応は誰かが担うことになりますが、そこで大切なのは「できる人が、できる範囲でやる」という大前提を崩さないことです。
その中で、病院代や施設費、日用品代などを、誰かが一時的に立て替える場面もあるでしょう。その場合も、「出せる人が負担する」のではなく、あくまで親のお金から精算することが大切です。
立て替えたものの金額や日付は記録し、可能であればレシートも残しておきます。目的は、誰かに負担を押し付けることではなく、「親のお金は親のために使う」という前提を共有することです。
ほとんどのトラブルは、自分の「できる範囲」を超えて行うところから発生します。小さな負担も積み重なれば、「何で私ばっかり」という恨みに変わり、きょうだいで傷つけ合うことになるのです。
「娘だから」「妻だから」が介護する理由にはならない
日本では、介護は「女性の役割」だと考えられることがまだまだ多く、「娘」や「妻」の立場で、自動的に高齢者の介護を担っている方がたくさんいます。もし読者の中で、「女性なんだから」という圧力で断れず、無理を重ねている方がいたら、どうか、その状況を受け入れないでください。
「私にはできません」とはっきり断っていいのです。
その際、たとえば男のきょうだいや夫、親戚など、周りの人たちから古い価値観を押し付けられることもあるかもしれません。そこで、無理に反発しようとしないでください。その人たちの価値観をすぐに変えるのは不可能です。
「自分たちがこうしてきたんだから、あなたたちもこうしなさい」という押し付けには、まともに答えなくても大丈夫。「すみませ〜ん、忙しくて、できないんです〜!」などと、軽やかに受け流してしまいましょう。
決定権はすべて男性にある状態で、実務や雑務、愚痴の聞き役だけが女性に回ってくる。これまで日本では当たり前とされてきたこの形が、本来はとてもいびつなものである、ということに、そろそろみなさんに気づいてほしい、と思っています。
誰かが自分を削ってまで負う負担の先に、良い介護なんて存在しないのですから。
きょうだいの共通認識は「お金で揉めない」という一点
「私のきょうだいは性格的にそんな話し合いに応じてくれなさそう……」と、不安に感じる人もいるでしょう。
たしかに、きょうだいだけできれいに意見をすり合わせるのは簡単ではありません。それは、キャラクターや相性もありますが、親のお金や相続が絡むと感情的になりやすいからです。
とはいえ、揉めそうになっても、無理をしてまで対決する必要はありません。「親の介護は親のお金で。相続は別問題である」という考えだけを伝えます。
「自分が出すんだからあなたも出しなさい」は、絶対にやめましょう。
介護のために親の資産を使うことにきょうだいから反対されたら、無理に説得する必要もありません。考え方が違うことを認めた上で、自分はどうするかを決めればいいのです。時間をおけば、後からわかってくれることもあります。
理想的なのは、きょうだいで「お金のことで揉めたくないよね」という一点を共通認識にすること。それを、親が元気なうちに、まさに介護前夜の今、やっておくといいと思います。介護が始まって、誰かに負担がかかっている状態が続いていると、事態はややこしくなりがちです。
「親のお金は親のもの。亡くなるまでは、親が幸せに暮らせるように見守って、亡くなった後は冷静に判断しようよ」
話すのは、これだけで十分。大人同士の話し合いです。こちらが正しいのだと、相手を「教育」しようとしないでください。
どうしても揉めそうなら、「私は相続も放棄するし、介護の手伝いもしない」と、潔く一線を引きましょう。冷たく聞こえるかもしれませんが、無理な関わりを断つことで、初めて保たれる穏やかさもあるのです。
【POINT】
- やること:お金で揉めないという方針を共有する
- やらないこと:きょうだいを無理に説得しない
家族だけで抱え込まないために、今からできること
介護にかかるお金や今後の備えは、考えること自体が大変で、つい後回しにしがちなもの。でも、備えがないまま介護が始まると、心身や仕事への負担が大きくなることも。この記事をきょうだいや夫婦間で共有し、親の介護が本格的に始まる前から話し合うきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
次回は、介護が始まったとき、自分の仕事やキャリアをどう守るかを考えます。
【介護で親と自分の人生を壊さない備え】
1:親の介護費は「親のお金」でまかなう
2:親の資産、どこまで把握しておく?
3:介護前に聞きたい、親の「これから」
4:介護費できょうだいが揉めないために
5:「介護離職」を遠ざける考え方
6:介護休暇・介護休業の上手な使い方
※この記事は川内さんの著書『介護前夜の教科書 親と自分の人生を壊さないための備え』(講談社刊)より一部抜粋して構成しています。
もっと詳しく知りたい人は

『介護前夜の教科書 親と自分の人生を壊さないための備え』(講談社)
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