公開日:2021/10/11
他人につらさを伝えることが難しい関節リウマチ。もっと理解される社会になるよう、ワークショップを通じて専門家の方々と意見交換を行いました。
関節リウマチは、関節の炎症と進行性の関節破壊が特徴の疾患です。患者さんは日本に70~ 80万人(※1)、女性の患者さんは男性の約3倍と言われています(※2)。痛み・倦怠感・こわばりといった主観的症状に悩まされ、日常生活に不自由さを感じている方も多くいます。
※1 引用元 厚生労働省:リウマチ・アレルギー対策委員会報告書について(2011年8月)
※2 引用元 Yamanaka, H. et al. : Mod Rheumatol., 2014, 24(1), 33-40.
昨年同様、多くの方にご参加いただいた「関節リウマチ俳句コンテスト2021」。入賞した10句の中から、俳句王子として人気の俳人・髙柳克弘さんが選んだ最優秀賞と優秀賞、そして、入賞者同士の投票により選ばれた人気投票賞。この記事では、その他入賞作品も合わせてすべての俳句を紹介します。
今回は、これらの受賞選考とともに、関節リウマチへの理解を深めるためのワークショップも同時開催。入賞者の9名と関節リウマチの専門家5名が参加し、人に伝えづらい関節リウマチの悩みについて話し合ったり、自分の想いを医師に伝えて一緒に治療方針を決めたりすることの大切さを学びました。
短い時間でしたが、共感や理解が生まれる有意義なひとときに。参加者からは、「先生と通じ合えると痛みも和らぐ気がします」「医師と患者のコミュニケーションの大切さを実感しました」という声が上がっていました。
ゲストと俳句入賞者の皆さんは、オンラインで参加しました。
左上から
俳人・髙柳克弘先生とフリーアナウンサーの中井美穂さんの進行により、和やかかつ充実したワークショップとなりました。
Q. 症状が周りにわかってもらえなくて苦労したことは?
「1日の中でも、日によっても、目に見えない痛みや体調の変化がありますが、それを友達には言えても、職場の人には言いにくいです」(入賞者コメント)
Q. どなたかに相談したことはありますか?
「日本リウマチ友の会に入会し、同じ病を持つ方々と交流し、いろいろな話を聞いたことが、自分自身の参考にもなり、支えにもなっています」(入賞者コメント)
Q. 医師とのコミュニケーションで困ったことは?
「薬を商品名で覚えている患者と、薬剤名で話される先生。そういった少しの差が、気持ちのすれ違いを生んでしまうこともあると思います」(入賞者コメント)
北播磨総合医療センター リウマチ・膠原病内科 主任医長:三崎健太先生より
「書きながら説明をすること、あとはその土地の言葉でしっかり話すことが一番よく患者さんに通じるなという印象なので、それを心掛けながらやっていきます。患者さんも、わからないことは気軽に相談してくださいね」
昨今、医師と患者さんが一緒に話し合って治療方針を決める「協働的意思決定」が重要と考えられています。患者さんの価値観や考えをふまえ、患者さんと医師でよりよい治療方針を話し合って決めていくことが、治療の満足度にも繋がります。
兵庫医療大学 看護学部 療養支援看護学 教授:神﨑初美先生より
「患者さんの一番近くにいる私たち看護師が、患者さんに分かりやすいように噛み砕いて話したり、サポートをすることが大切だと思っています」
参加者の俳句に対して関節リウマチ専門家が詠んだ返句や、髙柳さんからの講評も合わせてお楽しみください!
【最優秀賞】 天高し痛みなき日のスケジュール
(黒木緑さん/70代/滋賀県)
作者コメント:痛みがない日、弱い日はうきうき。何をしようかとあれこれ計画します。
東京大学医学部附属病院 アレルギーリウマチ内科 講師(医局長)俳句結社 天為同人:庄田宏文先生より
痛みがない日のうれしさが伝わってくる句
天気のよい日は調子がいいことが多いでしょう。そこに秋の空の「天高し」がぴったりはまっていて、非常に巧みな句だと思いました。
■庄田先生からの返句:痛み去ね天高き日の天上へ
「去ね」はどこかにいけということ。秋の高い空へ向かって、痛いの痛いの飛んでいけという意味で詠みました。
【優秀賞】 花冷えや専門用語分かる振り
(瀬川令子さん/50代/三重県)
作者コメント:先生は、わかっているだろうと専門用語で説明してくれるけど、わからず後で調べることも。
公益社団法人 日本リウマチ友の会 会長:長谷川三枝子さんより
患者の本音を上手く詠み込んだ句
医師の説明にはどうしても「はい」と答えてしまうもの。患者さんの普遍的な心理を上手く季語に託し、忠実に表現されていると思います。
■長谷川さんからの返句:医師の一言理解できずに梅雨に入る
私自身は20代で発症してすぐに専門医と出会えず、数年後の桜の時期にやっと出会えました。しかし、医師の言葉を理解できず知識も足りなかったので、わからないことを聞き返すことができなかったんです。そのまま梅雨に入り体調の悪い時期を繰り返し、何年も後になって関節リウマチの制度を知ったときに、やっと先生の言葉が理解できた……という体験を詠んだ返句です。
【人気投票賞1】 花冷えや下から拝むこんぴらさん
(のりのりさん/50代/徳島県)
作者コメント:金毘羅さんへ友達と行ったとき、春の冷え込みで体が辛くなり、一人下から拝みました。
慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科教授:金子祐子先生より
共感と、希望を感じさせる素敵な句
こんな体験をされている患者さんは多くいると思います。でも、参道で待っている姿も、神様はちゃんと見てくれていると思います。
■金子先生からの返句:神様の見守る雪解けの参道
旅行の当日に調子が悪くて、お友だちに「自分はここで待っているから先に行って」という感じだったのかなと思い、参道で待っている人のことも神様はちゃんと見ているよという思いで返句を詠みました。季語の「雪解け」は、春になるとだんだんほぐれていく感じと、春の季節の喜びという2つの意味で入れてみました。
【人気投票賞2】 動かれへんけどまあええわ扇風機
(稲畑とりこさん/30代/神奈川県)
作者コメント:関節リウマチで動けなくなった祖母。しかし当の本人はそれほど気にした様子がなく、おそらくこう思っていたんじゃないかなというのを、祖母の関西弁を生かして詠みました。首だけ動かしてこちらを見てくれる様子と、向かれた我々がちょっと幸せになるというのが首振りの扇風機のようだなと思い取り合わせてみました。自分で自分を許すことから。
俳人:髙柳克弘さんより
関西弁が生きた、いきいきとした句
患者さんの心の声を関西弁のまま詠み込み、いきいきと、温かい印象に仕上げているところがいいですね。様子が思い浮かびました。標準語では深刻になりすぎてしまうところを関西弁にすることで、句を柔らかく温かい印象にしているのだと思います。扇風機という季語に自分の心を重ねたというところが素晴らしいです。
【その他の入賞作品】
足と靴仲良く出来て春散歩
(高野はるみさん/70代/埼玉県)
作者コメント:スニーカーのデザインも色も気に入ったのを見つける事が出来ました。
■三崎先生からの返句:「履けたんだ!」向日葵も咲き医者冥利
足は体重もよくかかる部分なので、患者さんにはなかなかお気に入りの靴を履いてもらえないこともあります。ですので、私自身靴が好きなのもありますが、患者さんがいきいきしながら靴を自慢してくれるととてもうれしいんです。靴を履けたということは僕の治療は間違っていなかったんだと、思わずにっこりしてしまう思いも込めて返句を詠みました。
こわばる手薬味大盛りそうめん
(ぴよぴよさん/50代/東京都)
作者コメント:包丁で薬味のネギを切ろうとして切りにくい時、少し切なくなりますね。それでもたくさんほしくて切りました。
■髙柳さんからの添削:そうめんに薬味大盛りこわばる手
とても夏のエネルギーにあふれた句です。五七五のリズムにうまく乗せられれば、リズミカルな調べが夏のエネルギーをよりまっすぐに伝えてくれるのではと思います。エネルギーをより伝わる形にするため、語順を変えてみました。そうめんを初めに持ってくると五七五のリズムにうまくはまり、映像的にも薬味大盛りのそうめんが最初に浮かぶので、読者の心をぐっと掴むことができます。
関節の曲りいとほし桜餅
(鹿沼 湖さん/60代/栃木県)
作者コメント:小指の第一関節が曲がっています。その指が愛おしくなります。
■髙柳さんの感想:「関節の曲り」の後には、どうしてもネガティブな言葉が続いてしまうような予感がありますが、「いとほし」とポジティブに捉えていますね。季語もよかったです。桜餅の色どりと、その背景には桜並木が見えてきます。さらにお花見の場面でたくさんの人と桜餅を食べているような賑わしさがあり、そこがとても心に訴えかけてきました。
夏至の駅孤軍奮闘昇り降り
(早起き猫さん/70代/福島県)
作者コメント:エレベーターやエスカレーターのない駅の階段の上り下りは、右ひざが悲鳴を上げる。まして夏の盛りはなおさらである。ゆっくりゆっくりひざの声を聞きながら昇り降りする。
■神﨑先生からの返句:走馬灯懸命に生き清々し
階段の上り下りは普通でも大変なのに、関節リウマチを抱えながら、暑い夏に一生懸命上っているという姿に感銘を受けました。この返句は、走馬灯がくるくると一生懸命回っている姿と、階段を一生懸命上る姿を合わせて、そして長く生きていくというところを走馬灯とかけて、「清々しい」と詠みました。
励まされ我も励まし小春風
(はつみそらさん/60代/福岡県)
作者コメント:発症当時から進行が早く、早期退職前、一時期病気休暇を取っていました。同僚達が入れ替わりでお見舞いに来てくれて励ましてくれるのですが、いつしか皆、仕事の愚痴や悩みを話して時間がゆっくりある私はしっかり聴き役に。帰るときは決まって皆「スッキリしたヨ、ありがとう」と笑顔で帰って行きました。私も気が紛れ懐かしい思い出です。
■髙柳さんの感想:「小春」だけでなく「小春風」とすることで、お互いの間に結ばれる絆のようなものが象徴化されていますね。「風」をつけた配慮が素晴らしかったと思います。一方的ではなくお互いに励まし励まされてコミュニケートできているということがはっきり表れていて胸を打つ句でした。笑顔と書かないのに句から笑顔が浮かんでくるというのが素晴らしいですね。
リウマチで腫れた母の手紅葉の手
(岡田美幸さん/30代/埼玉県)
作者コメント:母にリウマチで困ることは何かと聞いた際に、手が腫れて赤くなるという話が出ました。両手を見せてもらったところ紅葉のようでした。
■髙柳さんからの添削:リウマチで腫れた母の手紅葉いろ
「紅葉の手」は労わる気持ちも伝わりますが、紅葉は秋の代表的な風物でもあるので、痛みに耐えてきたお母様を称える気持ちも含まれているように思います。労わる気持ちと称える気持ちの2つが込められていることで、奥行きのある句になっているなと感じました。あまり作為計らいを交えずに、ストレートに素直な思いをそのまま詠んだからこそ、いい句になったのだと思います。「紅葉の手」は赤ちゃんの手を想像する方もいらっしゃるので、母の手であることをはっきり示すような形に添削してみました。
「自分を客観視することで生まれるほのかな余裕が俳句の源泉です。そうして詠んだ句を誰かと共有することで絆も生まれると思います。これからもぜひ、俳句を楽しんでください」
【主催】ハルメクweb、日本イーライリリー株式会社
【協力】公益社団法人 日本リウマチ友の会
ハルメクWEB 俳句コンテスト・ワークショップ事務局(ハルメクお客様センター内)
0120-86-1094(9:00~19:00 土日祝除く12月28日まで)
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