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- 阿川佐和子さん 毎日を「機嫌よく」過ごすコツ
2023年、古希を迎えた阿川佐和子さん。雑誌の対談やテレビ番組で、長年ホスト役を務め、迎えたゲストは老若男女2000人以上に上ります。そんな阿川さんが語る、心地のいい会話と人付き合いの秘訣とは?
――大ベストセラーとなった『聞く力 心をひらく35のヒント』(文春新書)から10年以上。このほど阿川さんが上梓した『話す力 心をつかむ44のヒント』には、誰でも生かせる「話す極意」がたっぷり紹介されています。
例えばパーティーで数人でしゃべっている最中に「あー、久しぶり!」と別の人がやってきて、私と話していた相手の関心がそっちに移ってしまったとき、「私の話が途中なんですけど」って言いにくいじゃない。
そんなとき、「それで?」とひと言、話の再開を促してくれる人がいると、どれだけありがたいか。そういう話すシチュエーションをあれこれ考えて、少しずつ作っていった本です。
――聞き上手、話し上手の阿川さんでも、思うように会話が弾まないことがあるのですか?
あまりよく知らない相手と二人きりで部屋に残されたり、たまたま一緒の車に乗ったりすると、“話すことがないぞ”となりますね。
そんなとき、外の景色や部屋の様子にヒントを求めると、「さっきまで雨が降ってましたけど、すっかり雲がなくなりましたね」とか「この部屋、ちょっと暑いですよね」とか、かける言葉は何かしら見つけられるものです。
それでも相手から「はい」以外に何も返ってこなかったら、この人は今あんまり話したくないんだなと思えばいいわけです。
相手のリズムに合わせて、こっちもたまにしゃべるくらいで“沈黙もよし”とする。沈黙の時間は決して悪いことではないから、何か話さなきゃと焦る必要はないんじゃないかと思います。
不機嫌になり始めたら言い聞かせる言葉
――阿川さんは、会話はもちろん、人間関係を円滑にするためにも「機嫌のいい顔」をしていることが大切と言います。
やっぱり機嫌の悪そうな人のそばには行きたくないし、機嫌がよさそうだと自然と人が寄ってくると思うんです。
私の座右の銘は「いつも喜んでいなさい」
高校を卒業するとき、卒業アルバムに座右の銘を書けと言われて、当時クリスチャンの学校に通っていたので聖書をペラペラめくって目に留まったのが「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。どんなことでも感謝しなさい」という言葉でした。
私には絶えず祈るほどの信仰心はないし、すべてに感謝するのは難しい。でも「いつも喜んでいなさい」ならできるかもと思って、何となく座右の銘にしたわけです。それから長い間忘れていたけれど、仕事を始めてから、ああ、いい言葉だなと改めて思いました。
もちろん嫌なことや腹の立つことはいろいろあって、いつも喜んでなんていられませんよ。でもカッとなって不機嫌な顔になり始めたら、“いかんいかん、いつも喜んでいなさい”と自分に言い聞かせるようにしています。
真実より、どれだけ心地よく話せるか
――新刊では、4年前に亡くなった認知症の母親との会話を振り返り、「問題は、認知症である人間が、どれくらい心地よく話せるか」だと綴っていますね。
母が認知症っぽくなってから息を引き取るまで9年半ありました。
初期の頃は、もしかしたら治るかもしれないと思い、家族じゅうで「さっき言ったこと、思い出して」「なぜ忘れるの? もう一度やってみて」と必死になって母に学習させようとしていました。それが無理だと納得するのに時間がかかりましたね。
そのうち“もう昔の母を求めても無理なんだ”という悲しみと怒りでイライラしてしまって。母の方もなぜ家族が不機嫌なのか理解できないから感情的に動揺するわけです。
そういう時期がしばらく続いて、あるとき気付いたんです。このまま互いに傷つくよりも、毎日を機嫌よく笑って生きていくことが大切なんじゃないかと。
そう思い至ってからは、例えば一緒にレストランを訪れて、母が「ここは前とずいぶん変わったね」と言うと、「いやいや、母さん、ここは初めて来た店です」と正したりせず、「そうだね、変わったね」と話を合わせるようになりました。
真実なんてどうでもいいんです。話を合わせた方が母の機嫌がよくなるし、こっちも楽になる。それから母との会話がすごく面白くなりました。
空腹と満腹、どちらが幸せですか?
――70歳になった阿川さんの今の楽しみは「ごはんを作ること」だとか。
台所仕事を面倒くさいなと思うこともあるけど、やっぱり食べることが好きなんですね。朝目が覚めるとベッドの中で、“冷蔵庫にあれが残ってるから別のものと組み合わせよう”“あの野菜も早く使おう”とかなんとか、ずっと考えています。
ところで、あなたは空腹のときと満腹のとき、どちらが幸せですか?
お腹いっぱいのときが幸せという人もいるでしょうが、私は断然、空腹のときだと思う。お腹が空っぽの状態で“よし、これから食べるぞ”というときの幸せ感!
私は晩ごはんで幸せを思い切り味わいたいから、お昼はあまり食べないようにしています。大層なものは作りませんが、家にいる日は午前中から買い出しや下ごしらえをして、晩ごはんの「いただきます」に備えていますね。
――料理の話題になったとたん、「最近は菜の花の辛子漬けがおいしくて。ゆで汁も捨てずにみそ汁に入れたりする」「牡蠣をニンニクとオリーブオイルでジャーッと炒めて冷蔵庫で保存すると、いいつまみになる」などなど、話が止まらない阿川さん。いつまでもパワフルな秘訣は、食べることにあるようです。
『話す力心をつかむ44のヒント』
阿川佐和子著/文春新書/990円
日本人だからこその会話の妙や楽しみ方はあるはず――。初対面の相手との会話から、認知症の親の介護や家庭円満の秘訣、会議や会食まで。インタビュアーを30年以上続けている阿川さんが披露するとっておきのエピソードとコミュニケーション術が満載です。
阿川佐和子さんのプロフィール
あがわ・さわこ
1953(昭和28)年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。「情報デスクToday」のアシスタント、「筑紫哲也NEWS23」のキャスターを務めた後、エッセイスト、作家として活躍。99年『ああ言えばこう食う』(檀ふみ氏との共著)で講談社エッセイ賞、2000年『ウメ子』で坪田譲治文学賞、08年『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。14年に菊池寛賞を受賞。主な著書に『聞く力心をひらく35のヒント』『叱られる力聞く力2』『ブータン、世界でいちばん幸せな女の子』など。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人
※この記事は、雑誌「ハルメク」2024年3月号を再編集しています。
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