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- 60歳の女子大生(後編)
死ぬための大学入学
この先はまた余命宣告を受けて、死ぬことになるのだろう。ベッドの上でオタオタとカッコ悪く死んでいくのはたまらない。
娘はまだ高校生だった。
年頃の娘に見せられるのは、格好いい女の死にざまくらいだと思った。
ではベッドの上でどうすれば娘に見せられる死に方があるのか……。悩んだ。
そこで、最後の注射が終わるその日、私は法政大学に入学願書を提出した。
苦手だった歴史の勉強をしながらなら、ベッドの上で死に近づいても、オロオロせずに済むだろう。
1月して入学許可が下りた。
コツコツとレポートを書き、提出し試験を受けて勉強を進めた。夜間の授業にも、静岡から東京の飯田橋まで週一回通って単位を取得した。
60歳の大学卒業生
そうこうしているうちに半年がたち……、ウイルスは死滅していた。完治したのだ! ああ、これで生きられる。
しかし、はたと立ち止まった。
死ぬつもりで入学した大学だけど、卒業するしかないではないか。
格好だけの勉強では済まなくなった、今度は死に物狂いで卒業に向けて勉強するしかない。
卒業論文に引っかかりながら、何とか完成させた。
こんなに人生で資料を読み漁ることはない、と思うくらい本にうずもれて暮らした。
2行書いては夫に読んでもらい、ダメだしされると何度も何度もまた書き直した。
なんとか、「静岡県下茶産業」というタイトルの175ページの卒業論文をを書き上げた。良い評価を受けた。
60歳になった3月、夫に父兄として参列してもらい、東京武道館での卒業式に出席した。
死ぬはずで入学した大学を、私は60歳で卒業したのだ
病気も治った。今は、肩甲骨のあたりに生え始めた羽がうずうずする元気な婆さんをやっている。
さて、年末はバルカン半島へ、3月にはチュニジアへの旅が控えている。
未だ見ぬ国が私を待っているのだ。
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