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更新日:2025年07月05日 公開日:2025年06月28日
美術館が面白くなる大人の教養2
絵画に描かれた「物語」を知ると、鑑賞がより奥深いものになります。本記事は美術史ソムリエの井上響さんの著書『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』より一部抜粋し、絵画の鑑賞ポイントを紐解きます。
美術史ソムリエ、クリエイター。東京大学文学部人文学科美術史学専修卒。「美術館が2割面白くなる解説」というTikTokアカウントをメインに、西洋絵画の背後にある物語や美術史を誰でも楽しめるように発信。2025年2月現在、SNS総フォロワーは15万人を超えている。
監修:秋山 聰(あきやま・あきら)さん
1962年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。著書:『デューラーと名声―芸術家のイメージ形成』(中央公論美術出版)、『聖遺物崇敬の心性史―西洋中世の聖性と造形』(講談社)、『旅を糧とする芸術家』(共著、三元社)、『西洋美術史』(共編著、美術出版社)など。
※本記事は『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』(KADOKAWA刊)より一部抜粋して構成しています。
前回の記事では、「自分なりの絵画の観方」を持つために必要な2つのコツを紹介しました。
第2回は、絵画でよく表現される、もしくは知っていると観方が大きく変わる「物語」のあらすじと鑑賞のポイントを解説していきます。
絵画の題材となる「物語」の知識を身に付けておくと、題材を自分で見分けられるようになるので、「何が描かれている」という絵の内容が理解できるようになります。
まずは本文を読む前に絵画を観て、どのような物語なのかを想像してみてください。
妖しく微笑む一人の美女。豪奢な衣服に身を包んだ上流階級の女性のようですが、その手に持つのは生首の乗った皿……。果たしてこれは、どういう絵なのでしょうか。
彼女の名はサロメ。ユダヤ王国の姫です。そんな彼女がなぜ生首を持っているのか? その理由は、褒美だからです。なぜ、褒美が生首なのか? 聖書に書かれた物語を紐解いていきましょう。
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とある晩のことです。ユダヤ王国の、王の誕生日を祝う催しが王宮で開かれていました。
姫であるサロメは、王の誕生日を祝うため舞を披露しました。その舞が非常に美しかったので、王は機嫌をよくし「なんでも望むものを与えよう」と言いました。
これにサロメは悩み、母ヘロディアに相談しました。すると母は言いました。
「洗礼者ヨハネの首を望みなさい」と。
王とヘロディアが結婚したことを批判するヨハネを、ヘロディアは恨んでいたのです。
しかし、へロディアは王の意に反して、ヨハネを殺すことはできませんでした。そこでへロディアは、サロメに「ヨハネを殺すことを褒美として望みなさい」と命令するのです。
愚かにもサロメはこの言葉に従い、王に望むのでした。ヨハネの首を、その命を。
王は悩みます。心情としてはヨハネを殺したくない。しかし約束してしまった言葉を撤回することは王としてできない。
結局王は約束通り、サロメにヨハネの首を渡すのでした――。
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このサロメを描いた絵画は多くあります。しかし決してうれしそうな顔をしている作品ばかりではありません。
例えば、ティツィアーノによる2つの作品(下の画像)では、サロメは目を伏せがちにして、生首の方を見ています。その表情にうれしさは全く感じられません。
サロメが喜んでいないのは当然です。彼女は母親の言いつけに従っただけであり、心からヨハネを殺したいとは思っていなかったはずだからです。
このようなサロメの姿はさまざまな時代に描かれます。「首の乗った盆と美女」が描かれていたら、それはサロメです。
ここまで紹介したどの作品でも、サロメは嫌そうな表情をしています。どちらの絵画でも、母親の言いつけ通りに人を殺してしまった、ただの乙女として描かれています。
少し面白いのが、フランツ・フォン・シュトゥックの作品です。こちらの作品では、サロメの官能性が強調されて描かれています。
貴婦人のような高貴な女性としてのサロメというより、踊り子としての性格が強調されていることが、扇情的な衣装を纏って上半身裸でいることからわかります。
ヨハネの首は背後にそっと描かれていますが、それに対して首をのけ反らせ、片手を腰に当て高笑いしているように見えるサロメ。彼女は忌避感を抱くというよりも喜んでいるように見えます。
「ヨハネの死に喜ぶ悪女」として、フォン・シュトゥックはサロメを描いているのです。
あなたはサロメをどのように解釈しますか?
主題を見分けるポイント:生首と盆
鑑賞のポイント:サロメの描き方(エロティックなのか、悪女なのか、無垢なのかなど)
「この赤子を真っ二つにせよ」
これはそんな判決の場面を描いた絵画です。一段高いところに座る王は、今まさに命令したところです。右側を見ると、兵士が赤子を斬り殺そうとしています。これはどういう場面なのでしょうか。
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あるところに、争い合う二人の女性がいました。一人の女が言います。
「王よ、赤子を私のものだと認めてください。この赤子は私が産んだ子です」
もう一人の女も負けじと言います。
「いえ、この子は私の子です」
彼女たちは同じ家に住んでいて、同じ日に赤子を産みました。けれど一人の子は、生まれてすぐに亡くなってしまいます。そして一人の女が主張するのです。
「この女は、私の赤子と自分の死んだ赤子をすり替えました。私の赤子は、本当は生きているのに、この女に盗られたのです」
もう一人は言います。
「そんなことはない、これは私の子だ」と。
そうして二人とも、自分の子だと争います。しかし、どちらも証拠に欠けており、どちらが本当の親かわかりません。
そんな訴えを聞いた王が出した答えは……
「子を真っ二つにして、半分ずつ両方に与えよ」というものでした。
一方はその判決を受け入れます。しかしもう一方は子を可哀想に思うあまり、子を殺すことを拒否し、相手に渡してくれと王に申し出ます。それを見た王は、愛情を持つ女が本当の親であるとしました。本当の親なら、子を殺さないことを見抜いていたのです――。
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先ほどの絵画は、王が命令をしてまさに赤子が殺されようとする場面です。中央の兵士は、今まさに剣で赤子を真っ二つにしようとしているところです。右側の女性はそれを受け入れ、左側の女性は殺すのを止めようとしています。
上の作品も観てみましょう。こちらの作品でも同様に、左側の兵士が赤子を殺そうとするところです。中央にいる一人の女性は「殺せ」と叫んでいるようにさえ見えます。そして左側の女性は慈悲を願っているところです。それを見た中央のソロモン王は、左側の女性に赤子を渡すように、指示をしたところです。
これらの作品はなんとも賢い判決をした王様の物語を描いた絵画なのです。
主題を見分けるポイント:赤子を争う二人の女性と王
鑑賞のポイント:構図、どちらを本当の親として表現しているか
次回は、美術の造形の変遷を記録した「歴史」を、名画とともに見ていきます。
東大の美術史で学んだ筆者が、有名絵画を含む 130 点以上の作品を使って、絵画の観方をわかりやすく解説していく一冊。初見の絵にも対応できる基礎力が養われ、美術館がもっと楽しくなること間違いなし。絵画が好きな方、教養を身に付けたい方にもおすすめです。
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