なんかよかった、で終わらない「絵画の観方」2割増しで面白くなる2つのコツ

更新日:2025年06月30日 公開日:2025年06月28日

美術館が面白くなる大人の教養1

なんかよかった、で終わらない「絵画の観方」2割増しで面白くなる2つのコツ

なんかよかった、で終わらない「絵画の観方」2割増しで面白くなる2つのコツ

「絵を見るのは好きだけど、難しいことはよくわからない……」という人の間で話題の書籍『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』。本記事は同書より一部抜粋し、絵画鑑賞がぐっと楽しくなる2つのコツを紹介します。

教えてくれた人:井上 響(いのうえ・ひびき)さん

美術史ソムリエ、クリエイター。東京大学文学部人文学科美術史学専修卒。「美術館が2割面白くなる解説」というTikTokアカウントをメインに、西洋絵画の背後にある物語や美術史を誰でも楽しめるように発信。2025年2月現在、SNS総フォロワーは15万人を超えている。

監修:秋山 聰(あきやま・あきら)さん
1962年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。著書:『デューラーと名声―芸術家のイメージ形成』(中央公論美術出版)、『聖遺物崇敬の心性史―西洋中世の聖性と造形』(講談社)、『旅を糧とする芸術家』(共著、三元社)、『西洋美術史』(共編著、美術出版社)など。

※本記事は『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』(KADOKAWA刊)より一部抜粋して構成しています。

美術館に行って楽しめる人、楽しめない人の違いとは!?

なんかよかった、で終わらない「絵画の観方」2割増しで面白くなる2つのコツ
cba / PIXTA

美術館に行くのが好きで、絵画に興味はあるのに、なんとなく楽しみきれない――。そんな悩みを抱えていませんか?

例えば

  • 解説がないと楽しめない
  • 展覧会に行っても「なんとなく良かった」で終わってしまう
  • 好きな絵があるのに、良さを言語化できない

など。

こんな悩みを効果的に解決するために有効なのが、鑑賞の基本となる2つの知識を身に付け、「自分なりの絵画の観方」を持つことです。

そうすると、まるでピントの合ったメガネをかけるように、色鮮やかに、そして今までと違った感覚で作品を鑑賞することができるようになります。

まずはこの絵を10秒鑑賞してみてください

レンブラントと工房《イサクの犠牲》1636年、アルテ・ピナコテーク、ミュンヘン(ドイツ)
レンブラントと工房《イサクの犠牲》1636年、アルテ・ピナコテーク、ミュンヘン(ドイツ)

突然ですが、上の絵を観てください。

率直に、この絵を観てあなたは何を思いますか? 気構えずに、何も知らずにこの絵を展覧会で観たと想像してください。そして10秒で良いので鑑賞してみてください。

きっとあなたは、まずモジャモジャの髭を生やした老人を見たのではないでしょうか。

次に、半裸の青年を見て、最後に天使の方を確認したのではないでしょうか(もしかしたら天使の後に青年かもしれません)

もう少し興味を持ったあなたは、「天使が老人の手を掴んでいること」「ナイフが落ちていること」「背景が山であること」に気が付いたかもしれません。

そして、この絵を知らないあなたは疑問に思ったはずです。

「この絵は何なのだろうか」と。

でも、そこで鑑賞をやめてしまってはいないでしょうか。

「ふーん、こういう絵があるんだ」だけで満足してしまっては、「殺人犯がなぜか天使に止められている絵を観た」という感想で終わってしまうのも無理はありません。

しかし、この絵の背景にある「物語」を知った上で、この絵を鑑賞していたらどうでしょう? 感想はきっと大きく変わってくるはずです。

絵の背景にある「物語」を知る

なんかよかった、で終わらない「絵画の観方」2割増しで面白くなる2つのコツ
南ライラ / PIXTA

ここからは、さっきの絵に何が描かれているのかを解説していきましょう。先ほどの作品「イサクの犠牲」は聖書の一場面を描いたもので、あらすじは次の通りです。

「あるところにアブラハムという信仰深い男がいた。あるとき、神はアブラハムの信仰心を試すため、彼の息子・イサクを自分に捧げるように命じた。信仰深いアブラハムは神の指示に従い、山でイサクを縛り付け、その喉元を掻き切ろうとした――」

なんと酷い物語なのでしょう……。しかし物語には続きがあります。

「まさにイサクが捧げられようとするとき、神は天使を遣わして彼を止めた。そしてアブラハムの信仰心が本物であることを認めた。そして彼の子孫(ユダヤ人)の繁栄を神は約束した。おしまい」

ほっ。ハッピーエンドですね。

「イサクがひたすら可哀想」「都合が良すぎる展開」など、ツッコミたくなる箇所はたくさんありますが、今回はそれは置いておきましょう。

大切なのは、この物語を知ることで、鑑賞者であるあなたが「この絵を見て感じること」がどう変わるかです。

登場人物の表情から心情を想像してみる

レンブラントと工房《イサクの犠牲》1636年、アルテ・ピナコテーク、ミュンヘン(ドイツ)

この絵の物語を念頭に、さっきの絵を再度鑑賞してみてください。モジャモジャヒゲの老人・アブラハムの表情に、途端に生気が満ちてこないでしょうか? 

彼は大事な息子を殺す直前の、極度の緊張状態にありました。そして今まさに息子を殺そうとする緊張の頂点で、突然神の使いによって止められたところなのです。

覚悟を決めたその瞳、苦悩と驚きにあふれたその額のしわ。動揺と緊張から開いてしまっている口元……。彼の表情が生きているかのように迫真的に感じないでしょうか? 

さらにイサクについても観てみましょう。

レンブラントと工房《イサクの犠牲》1636年、アルテ・ピナコテーク、ミュンヘン(ドイツ)

イサクの顔は押さえつけられたアブラハムの手により、我々から見ることはできません。

けれども彼の体の様子から、彼の感情をうかがい知ることができます。力の入っている足、さらけ出されている首の生々しさ……。恐怖からでしょう、体はこわばってしまっています。

彼はどんな感情なのでしょう? 諦め、恨み、恐れ……何を感じているかを想像してみてください。

どうでしょうか? 絵画から受ける印象は変わってきましたか? 

他の画家の作品と比較し「知識」を深める

カラヴァッジョ《イサクの犠牲》1603年頃、ウフィツィ美術館、フィレンツェ(イタリア)
カラヴァッジョ《イサクの犠牲》1603年頃、ウフィツィ美術館、フィレンツェ(イタリア)

次は同じ題材を描いた、ほかの画家の作品と比較して、知識を深めてみましょう。

上の絵はカラヴァッジョという画家の作品で、先ほど紹介した「イサクの犠牲」と同じ場面を描いています。

イサクを殺そうとしているアブラハムを、天使が止めているのは同じです。しかしこの絵は先ほどのレンブラントの絵とはいろいろと異なります。

一番大きな違いは構図です。この絵は中心のアブラハムの姿から反時計回りを描くように視線が誘導されています。最初にアブラハムに目がいき、次に画面外から現れている半裸の天使、そして天使が押さえているアブラハムのナイフを握った手、そうして最後にイサクの姿へ。左から右へと、実際の物語とリンクして読み取れるように描かれているのです。

イサクの表情にも目を向けてみましょう。

カラヴァッジョ《イサクの犠牲》1603年頃、ウフィツィ美術館、フィレンツェ(イタリア)

このイサクの顔は、先ほどの作品と違って恐怖に満ちています。彼の訴えかけてくる視線は少なからず鑑賞者を動揺させるでしょう。どこか静謐に我々の想像力を掻き立てる先ほどの作品と比べると、明らかにこちらの作品のイサクは強い感情を発露しています。

「自分なりの絵画の観方」をつかむコツ

なんかよかった、で終わらない「絵画の観方」2割増しで面白くなる2つのコツ
Ushico / PIXTA

ここまで、

  1. 背景にある「物語」を読む
  2. 他の画家の作品と比較し、絵についての「知識」を深める
  3. 上記を元に「登場人物の感情を考察」する

という流れで、同じ題材を描く2つの絵画を鑑賞してきました。

この流れを踏まえ、改めて最初に紹介したレンブラントの「イサクの犠牲」を観てください。今の印象は、何も知らずに観たときと同じでしょうか? 

もし変化が起きたなら、それは「物語」をきっかけに絵画に描かれた登場人物たちの解像度が高まり、作品を深く鑑賞できるようになったからでしょう。

自分なりの絵画の観方を持つために、もう一つ知っておきたいのが「歴史」です。

美術の歴史からは、さまざまな絵画の表現パターンを知ることができます。そうすると「画家が作品を描いたときに何を意識していたか」を分析できるようになり、新たな角度から作品を鑑賞できるようになります。

つまり、「物語」と「歴史」の2つこそが、絵画を深く鑑賞するために必要な知識というわけです。

これらを知らないままでは、絵を読み解くのが極端に難しくなります。例えるなら、英語を知らないまま字幕のない洋画を観るようなもの。どんな場面かなんとなく感じることができても、細部の心の動き、感情を揺さぶるセリフの意味は決して理解できないでしょう。

「物語」と「歴史」という一種の字幕を踏まえて芸術作品を観ることで、ピントの合った解釈ができるようになるのです。

次回は、知っていると観方が大きく変わる「物語」のあらすじと鑑賞のポイントを解説していきます。


もっと詳しく知りたい人は井上さんの書籍をチェック!

東大の美術史で学んだ筆者が、有名絵画を含む 130 点以上の作品を使って、絵画の観方をわかりやすく解説していく一冊。初見の絵にも対応できる基礎力が養われ、美術館がもっと楽しくなること間違いなし。絵画が好きな方、教養を身に付けたい方にもおすすめです。

HALMEK up編集部
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