家族だったチル子さん
エッセー作品「家族だったチル子さん」浜三那子さん

公開日:2021年05月04日

通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第6回

エッセー作品「家族だったチル子さん」浜三那子さん

エッセー作品「家族だったチル子さん」浜三那子さん

「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。浜三那子さんの作品「家族だったチル子さん」と青木さんの講評です。

家族だったチル子さん

猫を飼っていた。今から11年前に19歳で亡くなるまで。我が家の一員として君臨し、数々のエピソードを残してくれた。

二子玉川園の駅の近くで恵まれない猫を斡旋している所から、500円の手数料を払い、はるばるやって来た三毛猫の牝である。
名前はメーテルリンクの「青い鳥」のチルチル、ミチルからチル子となる。
手の平に乗る位の大きさでガリガリに痩せていた。2、3日しても下痢が止まらないので近くの動物病院へ連れて行き、白い小さな下痢止めの錠剤をもらって来た。
「ひと粒を餌の中に混ぜて与えるように」
とのことだった。最初の1回は飲み込んだが、2回目からは1口ほど残った餌の中に必ず薬が混っていた。再び病院へ連れて行った。先生と助手は無理やり口の中へ薬を入れて、チル子がもがいても1分近く押さえつけていた。
「これで飲み込んだでしょう」
と手を放したら、くるりと向きを変え先生の前に「ペッ‼」と薬を吐き出した。
それ以来そこの病院では 『根性猫のチル子さん』と呼ばれた。

私は当時ささやかな習字教室を持っていた。チル子は子供達の人気者になり
「あそこの教室へ行くと猫にさわれるョ」
と来てくれる生徒もいて招き猫になった。
実は住まいは団地なので犬猫は飼育禁止だ。
そこで娘が教育係になって鳴かない猫に仕付けた。呼ばれても返事ではなく、長くて先がカギになっている尻尾をトントン振るようにさせた。
「チル子さんはかわいくて、きれいで、お利口だから出来るでしょ!」
と煽てると頑張る猫だった。

次の年の春先、盛りが付いて家出を3回くり返し、7月には7匹の子猫を出産した。
6匹が無事に育ち、かわいい成長の過程を楽しませてもらった。10月には全員里子に出し、避妊手術もすませた。
2年後に娘が結婚して男の子が生まれると、自分の子育てを思い出して子守りをしなくてはと思うのか、寝かせている赤ん坊の枕元に、カマキリやバッタを捕まえてきて生きたまま並べるのには閉口した。

その孫が1歳半のとき、夫は脳内出血で右半身マヒの体になり、闘病生活に入ると、チル子は私のことを一生懸命気遣ってくれた。
夫と私がちょこっと言い争いになりかけると、テーブルの上に上がり夫に向かって「フウ!!」と威嚇して夫をだまらせたり、夫のリハビリの手伝いをしてマッサージの先生にほめられたり。

最後は老衰のため19歳で息を引き取った。8キロの大型猫だった。夫も子供も孫も泣いた。

「いっぱいの思い出をありがと! 生まれ変わっても又、家族になろうネ!!」
と私はやさしく送り出した。

 

青木奈緖さんからひとこと

今回の講座では、一緒に暮らす動物のことを「家族のエッセー」としてお書きになる方が一定数いらっしゃいました。
もはやペットというより、家族の一員、パートナー、伴侶という考え方が広まっているようです。

浜様の作品でも、家族という大枠の中で猫のチル子さんがいきいきと描かれています。

一点、今後のレベルアップのポイントとして、作品の最後をもう一考することをお勧めします。
感謝の気持ちを「有り難う」とストレートに表現したくなるのはわかりますが、家族のエッセーとしてはありがちです。
定形的な終わりではなく、ひとひねり加えましょう。

 

ハルメクの通信制エッセー講座とは?

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。

次回第3期の参加者の募集は、2021年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。

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