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- 第3回 ユニバーサルデザインが解消する3つのバリア
車いすユーザーとして、障害児を育てる母として、自身の視点や経験を生かし、ユニバーサルマナーを全国各地で伝えている岸田ひろ実さん。講演会のために国内外さまざまな場所への出張や自身も旅行好きである岸田さんの、車いすと旅する姿をお伝えします。
講演は、新しい出会いと気づきを教えてくれる
講師を始めてから、早5年が経ちました。病院で寝たきりだった頃は想像もしていませんでしたが、今は日本だけではなく、海外にも行かせていただいています。講演の回数は年間180回を超えました。会社で働いている社会人、子育てに奮闘しているお母さん、障害のあるお子さんを持つご家族の皆さんなど、たくさんの方にお会いしました。
伝えることは、歩けなくなった私に与えられた使命だとも思っています。新幹線や飛行機に乗る機会も増えて、訪れる各地で感じた「バリア」や「温かい配慮」を感じられるので、毎日が新鮮です。
歩けない私にとっての障害とは
歩けない私にとっての障害とは、何でしょうか。
実は、歩けないことが障害ではありません。街中に存在する、街中の段差や急な坂道など、車いすで進むことができなくなる環境が障害になっているのです。なぜそれらの環境があるのでしょうか。
それは、大多数の人が歩けるから。たったそれだけの理由でしかありません。例えば大阪市内にある飲食店のうち、車いすで入れるのは5%。さらに車いすでトイレも使えるとなると、その2%以下となります。みんなで食事に行こうと思い立っても、お店を調べるだけで一苦労です。障害は、人ではなく、環境にあります。
ハードは変えられなくても、ハートは変えることができます
私のように車いすに乗っている人を含め、障害者や高齢者のバリア(障害)は3つあります。それは、環境のバリア・意識のバリア・情報のバリアです。
「環境のバリア」の解消とは、施設や設備のことです。スロープやエレベーターを設置するなどといった大切なことですが、一方で、時間とお金がかかります。しかし、ハードは変えられなくても、ハートは変えることができます。
「意識のバリア」の解消とは、人との向き合い方や、サポートのことです。たとえ段差や階段があったとしても声を掛け、サポートしてくれる人がいれば、環境のバリアを取り除くことができます。
最後に、「情報のバリア」の解消です。せっかく環境や意識が整備されていても、必要としている人に届かなければ意味がありません。誰もが行きたい所に行ける社会を作るためには、情報を広めることが必要です。
私は今、この3つのバリアを解消するために活動をしています。
ラーメン屋さんでのうれしいおもてなし
ラーメン屋さんは、私が車いすに乗るようになってから、行きづらい場所になってしまいました。ほとんどのラーメン屋さんは店内が狭くて、細い通路、高いカウンターに丸椅子という設備です。運良く店内に入れたとしても、私は丸椅子に移って食べることができません。
ある日、ラーメン屋さんですてきな体験をしたことがありました。外から様子を伺うと店内は広そうで空いていたので、もしかしたら車いすで入って食べることができるかもしれないと思いました。思い切って扉を開けると、案の定、設備は高いカウンターと丸椅子のみ。諦めて帰ろうとしたその瞬間、店員さんに呼び止めとめられました。
「いらっしゃいませ。何かお手伝いできることはありますか?」
びっくりしましたが、うれしくも思いました。ですが、お手伝いしていただいても無理だろうなと思い、事情を説明しました。
すると店員さんは、 「せっかく来てくださったのだから、どうすれば食べられるのかを一緒に考えさせてください」 と言ってくれたのです。そして、たどり着いた答えは、子ども用の肘掛・足置きのある椅子を使うということ。
私にとっては、その工夫がうれしくてたまりませんでした。 粋なおもてなしをしてくださった店員さんのおかげで、ラーメンを食べることができました。旅先での優しいおもてなしは、今でも忘れられない大切な思い出です。
何かお手伝いできることはありますか?
できない理由を見つけるのではなく、「何かお手伝いできることはありますか?」とお声がけをし、「どうすればできるのか」を一緒に考えることが大切です。自分とは違う誰かの視点に立ち、行動することを、私たちはユニバーサルマナーと呼んでいます。
意識が変われば、考え方や行動が変わります。そうすれば、おのずと環境や情報の在り方も変わっていくものです。
障害の有無にかかわらず、高齢者やベビーカーユーザー、また外国人など、多様な方が安心して行きたい所に行ける――。そんな優しい社会にするために、これからも私は、3つのバリアを解消するために全国を周りたいと考えています。
次回は、第4回「退院したら沖縄に!」。車いすで初めての旅へ。岸田さんが大好きという沖縄旅行について語ります。
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