1話10分で教養が身につく動画講座~睡眠と体と脳~

ダイエットの罠!神経性やせ症(拒食症)で脳がやせる

公開日:2021/01/11

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名古屋大学の尾崎紀夫教授が、最新の研究結果を元に、体、脳、心の関係を伝える1話10分全6回の講義。かつて拒食症と呼ばれていた「神経性やせ症」について解説します。神経性やせ症特有の認知のゆがみは、脳がやせてしまうことも一因と言います。

ダイエットの罠!神経性やせ症(拒食症)で脳がやせる
ダイエットの罠!神経性やせ症(拒食症)で脳がやせる

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神経性やせ症の患者1000人のうち5人は死んでしまう

神経性やせ症の患者1000人のうち5人は死んでしまう

「神経性やせ症」の原因は、まだわかっていない部分もありますが、その人の持って生まれた遺伝的な要素がある程度関係するらしいとされます。

少しわかっていることとしては、やや完璧主義の傾向が強いとか、もともと体の感覚がやや鈍く、空腹感をあまり感じないといった脳の特性があるのではないかといわれています。

ともあれ思春期に入り、誰もがやせたいと思い始めてくる時期になると、ダイエットによる体重減少が起こります。ここでとどまれば回復するのですが、栄養不足になって脳に影響を与えてしまうと、困ったことになります。

脳の変化が起きてしまうと、「自分をどう捉えるか」がゆがみ、自分のやせを認識しないばかりか、他の人からの意見も受け入れなくなるからです。結果的にその状態が慢性化して、アメリカの統計によると、年間で患者1000人のうち5人は死んでしまうといわれています。残念ながら日本でも亡くなっている方は多く、われわれとしても大きな問題であると捉えています。

「神経性やせ症」は葛藤条件では判断が弱くなる?

問題は、脳の変化がどのように起こるか、ということです。「神経性やせ症」になりやすい方の特徴として、私どもの研究でわかっているのは、例えば一般的な能力が高く勉強も割とできたりすることです。ただし、脳による判断の中の一部がうまくいかないということです。

矢印が指す方向を素早く押すテストをします。右向きの矢印が右にあればすぐに右を押せますが、矢印が左にあると、つい左と答えてしまうように位置によって干渉を受けてしまうのです。

このような課題で、「神経性やせ症」の方は間違いを起こしやすいことがわかっています。もっと一般的なもの、干渉を受けないような課題では特段悪くはなりません。

このあたりに、「神経性やせ症」の方の脳機能の変化のポイントがあるように思われます。干渉が生じ、葛藤的な状況になったとき、判断がうまくいかないということです。

全脳検査で分かった脳の中の「やせる」部分

脳については、「海馬は記憶を処理する」「扁桃体は不安をキャッチする」などといってきましたが、われわれの体や顔をどのように捉えるかというシステムについても、かなりわかってきています。そうしたことを背景に、神経性やせ症の方の脳の構造がどうなのかについて、脳画像のVBM解析という手法を用いて検討しています。

対象は23人の神経性やせ症の方で、年齢は27歳ぐらい、BMIが13(160センチで35キロぐらい)の方です。比較対象は全員女性で、26名の同じぐらいの年齢の方としました。

「3テスラ」という磁場のMRIで画像を診ます。解析手法はどのようなものかというと、脳の画像を小さなサイコロに分割していき、サイコロごとに神経性やせ症の方と健康な方を比較します。四角いサイコロ全てを網羅的に診るやり方により、脳のどこに問題があるかを全脳で調べるというやり方です。

そうすると、神経性やせ症の方が脳の中でやせている場所が見つかりました。つまり、全身の場合でも、やせやすい箇所とやせにくい箇所があるように、脳にも特異的にやせる場所があるということです。

自分のやせ具合が認知できなくなる脳の構造変化

自分のやせ具合が認知できなくなる脳の構造変化

やせてしまう脳の部分は、「帯状回」という感情のコントロールをする場所です。そのため、感情が不安定になります。

帯状回の中でも、真ん中辺りが体の感覚に関わるところで、後ろの方は空間認知をします。ここは、いってみれば自分の体型はどうなっているのかを認知する場所でもあります。

この部分がやせることで、脳の構造変化を起こしているらしいのです。つまり、体の感覚もやせ具合もうまく認知できず、感情的になりやすく、しかも干渉も受けやすいのです。

神経性やせ症の方の脳では、こうしたことが起こっているらしいのですが、これはあくまで「やせ」の結果ではないかとも思われます。そこで、BMI統計上、補正してもどこか残るだろうかという点を診ました。

また「視床」と呼ばれる場所は目で見ていろんな情報を得たときに、それを統合する場所です。自分の体を見て、やせているか太っているかを判断するには部分がかかわってくるのですが、ここがもともと少し良くないのかもしれません。
 
つまり、神経性やせ症では、視覚情報の処理があまりうまくいかないことがベースにあるということです。さらに、やせによって帯状回などに障害が起きてしまうため頑固になり、自分の体の状態がますますうまくわからなくなる、というようなことが起こっているようです。

神経性やせ症を通じて、脳・体・こころの連環を知る

このように、神経性やせ症の方の脳画像や認知機能の状態を検討しながら、一方では食行動やストレス関連物質を血中で測定したり、あるいはゲノム解析をしたり、最近では腸の中の細菌叢を診るといったことも始めています。

そのようにして、神経性やせ症の方の病態を明確化し、治療法の開発に向け、あるいは神経性やせ症の理解から脳や体、こころの連環を明確化するというプロジェクトが進行中です。


1話10分で教養が身につく動画講座「睡眠:体、脳、こころの接点」シリーズは今回で最終回です。

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