1話10分で教養が身につく動画講座

自分の歯で噛むことで、寝たきりからでも回復できる

公開日:2020/10/12

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歯科医師の河原英雄さんと上濱正さんが予防歯科と健康の関係を動画でお伝えする連載です。口腔ケアを怠ると、寝たきりにつながりやすいことを説明してきました。逆に、寝たきりの状態の患者さんも口腔ケアによって生きる気力がわくそう。(全4話中第3話)。

入れ歯を直して寝たきりから回復
入れ歯を直して寝たきりから回復

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短時間の入れ歯調整で、リンゴを食べられるように

今回紹介するのは、介護施設でほとんど寝たきりで過ごしていて、うまく噛むことができなかった方です。視覚障害があり、斜頸で車椅子を使用していました。たまたま入れ歯を持っていたので、その入れ歯を調整し、1時間半ほど待っていただきました。

その後、リンゴを食べさせてみました。完全に斜頸になっている方だったのですが、噛む筋肉を使うにつれて、首の角度が変わっていきました。

噛もうとすることによって、完全に変わっていきました。あてていた枕がいらなくなったりしました。2か月後には、何も薬を飲まずに、ただ噛むだけで、非常に元気になりました。

この患者さんだけでなく、若い先生からも、こうした症例がたくさん報告されています。

 

物を食べる意欲の向上が見られる

リンゴ

――(上濱)リンゴを食べるシーンについて解説したいと思います。ここでは、意欲が向上しています。自分でリンゴを持って、あるいは食べさせることによって、食べることができるようになりました。噛めなかったリンゴが噛めるようになり、この患者さんはおそらく、自信をお持ちになったと思います。

「ああ、噛めるんだ」と。脳がこの時、そう判断しているのです。しかも、「このリンゴを噛んだら飲み込んで良いのだ」と、安全性が確立されたことを判断し、それによって嚥下して、飲み込んでいるということです。

現在、誤嚥性肺炎が問題になっています。安心して噛んで食べられないと、嚥下を行うことができません。一方、この方はさらに、噛んで食べておいしいと感じたり、音がシャキシャキ鳴ることを聴いたりすることができています。視覚がなくとも、脳は音や匂い、味、硬さという4つの感覚で判断することができるのです。

食べる喜びが生きる意欲に繋がる

――(上濱) さらに、前歯で噛んで、お稲荷さんが食べられるとわかると、すでに泣きそうになっている様子がわかります。涙があふれんばかりに喜んでいます。これは、口が脳につながっており、脳が嬉しいと言っていることを意味しているのです。本当にもう泣きそうですよね。

ここで、意欲が出てきます。リンゴを自分の手で持って噛んでみようという意欲です。要するに、前向きに生きようとする意欲を、ここで読み取ることができます。昔であれば、こんなことは不可能でした。絶対に噛もうとはしませんでした。それが、嬉しそうに、「ちょっとこれ、やってみよう」という意欲がわき起こったのです。これは非常に大事なことです。

主役はあくまで患者さん自身である

――(上濱) 最後に、車椅子から立って歩き、自分で走ろうとする様子も見られました。走り始めるということは、全身の意欲がもっと向上し、もっと前へ進みたいと考えるほど元気になったということです。意欲の表れが、ここにも見られます。この点が、河原先生の症例のすごいところです。

食物とご本人の意欲というところにアクセスすることによって、治すことができます。寝たきりの方の意欲をリハビリだけで出させることはできません。つまり、本当の主役は、患者さんご本人なのです。その意欲を口を通じて出せるかということが、今の医療にかかっているのだと思います。こうした症状は従来、世界的にみても、薬とリハビリで直そうとしています。それに対して、この症例が重要なのは、口を通して初めて意欲が出てくるということです。

噛むことは、薬なしでの自立をもたらす

噛むことは、薬なしでの自立をもたらす

最後は胃ろうの方なのですが、元気になられました。

胃ろうは緊急避難的には止むを得ませんが、外す方法が確立していないといわれています。私は開業して51年になりますが、お医者さんから「歯医者さんが救世主だ」と聞いたのは初めてです。それほど、歯医者が期待されているのです。

この方は、胃ろうでかつ認知症でした。しかし、口腔機能を回復させることで活動性が増し、認知症が改善されました。これにより、自立しました。

私は、5年寝たきりよりも1週間自立して、自分の好きなものを食べたり散歩できたりするほうが、幸せな人生であると思っています。要するに噛むことは、薬なしで自立をもたらすのです。

ということで、口腔の健康にとって一番重要なのは、やはり予防歯科です。健康長寿の究極は予防歯科なのです。

口腔ケアにより、寝たきりの人が焼肉を楽しみにするほどに

河原 この方は78歳で、30年間自分の歯を守ってきたのですが、不幸にして脳梗塞で寝たきり状態になってしまいました。もしこれが入れ歯であったら、噛み合わせが変わっていたでしょう。しかし、この人はご自分の歯でしたので、噛み合わせが変わりませんでした。

お見舞いに行って、ガムを噛ませてみました。そうすると、しっかりガムを噛んで、唾液がどんどん出てきました。これなら絶対すぐに食べられるようになるだろうと思いました。何週間か後、家族と一緒に週に1回焼肉を食べに行っているという、楽しい話を聞きました。

ちゃんと口腔ケアをすることは鉄則です。噛み合わせをしっかりとすることができたので、私の目の前でお箸で食べることができました。もちろんそれは、本人の食べようとする意欲と、まわりの人の協力が前提です。

歯科医療は「生活の医療」である

河原 歯科医療は、決して命を助ける「命の医療」ではありません。秋元秀俊氏によれば、「生活の医療」といえるものです。私の友人の脳外科医によれば、一生懸命取り組んで命を助け、家族の方から喜ばれたにもかかわらず、それから2~3か
月経つと、その患者は物も言わず生活も何もない、ただの寝たきり状態になってしまうというケースも、少なくないといいます。

いわゆる植物人間になってしまい、家族は「なぜ助けたのか、生命保険も出ないじゃないか」と不満まで言うようになるそうです。こうしたことが続き、最終的に友人の脳外科医は、リハビリの医者になったそうです。

予防歯科によって患者の歯を徹底的に守る

私たち日本顎咬合学会は、予防歯科によって患者さんの歯を徹底的に守るということと、そして、もし歯がなくなったら口腔機能を再建するということに向けて、努力しています。医療において、機能再建ができるのは、歯科以外にはありません。再生はあっても、再建はないのです。

その中で、歯科は健康長寿をもたらし、「自立」をうながすということを目的にしています。それにより、患者さんの生活が向上し、医療費は減少し、介護負担も軽減します。医療費が減少するということは、特に大きいと思います。

歯科の中には歯並びや歯周病などいろいろな問題がありますが、入れ歯に関しては今、国際医療福祉大学の竹内孝仁教授の協力を得て、いろいろな介護施設にグループで訪問し、高齢者の入れ歯をちゃんと噛めるように調整して元気になってもらおうという活動を始めています。

この活動がどんどん広がっていくと、かなりまとまった改善が見込めますので、私たちはそのことをとても楽しみにしています。以上でお話を終えたいと思います。ありがとうございました。

 

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