公開日:2020/11/16
更新日:2021/10/27
脳や体の日々の疲れを回復して元気に暮らしたい…。そもそも疲労とは何なのか?疲れが発生するメカニズムや疲労回復に有効なことを、東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんに教えていただきました。
人間の体は、痛みや発熱などで私たちに異常を知らせてくれます。それと同じように「疲労」または「疲れ」は、休息をとった方がいいと教えてくれるアラームのようなもの。
つまり、疲労は「このまま仕事や運動を続けると、体に悪い影響をもたらしますよ」と告げるサインなのです。
では、どのように「疲労」や「疲れ」が発生するのでしょうか。近年の研究で、疲れが発生するメカニズムが少しずつ明らかになっています。
通勤や通学で同じ距離を歩く場合でも、「季候のよい春先」と「真夏の炎天下」では疲労度が大きく異なります。運動量は同じなのに疲労度が違う理由、それは体温を安定させることにかかる負担の違いといえます。炎天下では体温の上昇を抑えるため、少し歩くだけでもすぐに汗をかき、「はぁはぁ」と熱い吐息で放熱しようとします。
これを100分の1秒単位で休みなく制御しているのが「自律神経中枢」、すなわち脳なのです。
実際、自転車を4時間こぎ続ける試験でも、筋肉の疲労はほとんど検出されず、肝機能や腎機能にも大きな変化はありませんでした。その一方で、呼吸、心拍、血圧などは運動開始からわずか1秒で変化が表れ、数分後には発汗も観察されました。これら循環、呼吸、体温を無意識に常時制御しているのが「自律神経中枢」で、そこが運動による疲労を起こしていたのです。
運動時は体温上昇や酸素不足が起きやすく、「恒常性」の維持、すなわち生命維持に必要な体の状態や機能を保つのは大変です。そのため、自律神経中枢を構成する神経細胞はフル回転で働き、酸素を大量に消費しています。
そして、その分だけ活性酸素が細胞内に出現してしまいます。これは、デスクワークなどの精神作業においても同じです。精神作業では脳の前頭葉(主に脳の神経細胞)を酷使します。細胞は使えば使うほどに活性酸素を発生させ酸化ストレスの状態にします。
この活性酸素が脳の自律神経細胞を酸化させ、錆び付かせてしまうのです。錆び付いた細胞で構成される組織は本来の機能が果たせなくなります。これこそが「疲労の正体」だったのです。
今でも、「疲労」と聞くと「ガス欠」、すなわち車のガソリン計がゼロを指すようなエネルギーの枯渇状態をイメージする方も多いと思います。また「乳酸が疲労の原因」と信じている方も少なくないのではないでしょうか。
結論から申し上げると、豊かな日本に暮らす私たちのエネルギー自体が枯渇して疲労を起こすことはありません。日本においてエネルギー不足で疲れていたのは遠い昔の話。国が貧しくて栄養や摂取カロリー不足で細胞が活動できない時代には、うなぎもステーキも抗疲労物質だったといえます。
しかし、みなさんがダイエットに夢中になっている飽食社会においては、食べて疲労を回復することは時代錯誤といえます。疲労はエネルギー不足ではなく、神経細胞の酸化ストレスによる疲弊によって起こっているのです。
また、仕事や運動によって心身が疲れるのは、決してエネルギー不足や乳酸が問題ではないのです。ちなみに乳酸は、疲労を起こすことはなく、むしろ傷ついた筋肉の細胞を修復し、脳においてはエネルギー源となる有用な物質であることが判明しています。
疲労を克服するには、次の2点しかありません。...
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